東邦大学 出張講義

1. 実施目的 大学の講義を体験し、研究や専門分野の講義を聴くことによって、自然科学の面白さだけでなく、奥深さを体験し、今後の日々の学習に活かすことを目的とする。
(前年度も、同じ内容で実験をして頂いて、参加した生徒たちからは非常に好評だった講義の一つでした。そこでお忙しい先生ですが、今年度も大学の方にお願いをして講義をして頂ける機会となりました。 前年度の実験の様子
本校では、お茶の水女子大学の湾岸生物教育センターにおいて希望者に対して「海辺の生物体験」を実施しています。そこでは、湾岸生物教育センター長である 清本正人 先生から、海の生物に関する様々な実験や観察を教えて頂いています。天候が良い日の夜になるとウミホタルを採取し、形態の観察や負の光走性の実験など多くの講義をして頂いています。その中でもウミホタルの発光現象の観察は、生徒たちにとって非常に好評で印象に残る実験の一つです。
今回の実施目的は、実験と講義を行なうことで生物学的な発光現象としてだけでなく、ミクロな分子レベルでの発光(エネルギーの放出)として捉え、その原理を熱化学的な視点で考察できるようにすることです。

2. 実施講師 東邦大学大学 理学部 化学科 生物有機化学教室 教授 齋藤 良太 先生

3. 実施日程 平成29年12月27日(水曜日) 9:00〜12:30

4. 参加生徒 @ 高等部1年1組(医科コース) 26名
A 高等部1年2組(医科コース) 25名

 5.  講義内容    「光る分子と先端技術」 〜 生物発光の化学 〜
ホタルなどの生物発光に関わっている化合物と発光のしくみについて解説します。そして生物発光と有機ELとの共通点についても紹介し、発光性の科学物質が関わる先端技術についても講義します。

ルミノールの発光現象を利用した「光」
生徒がろ紙に書いたもの

実験の様子

     
 先ず、齋藤先生より「光る分子と先端技術」に関する講義を受けました。  齋藤先生より、今回の実験のサポートをして頂ける3名の研究室の学生を紹介して下さいました。
(3名のうち1名の方は、本校の卒業生でした。)
 本校では高等部2年生の化学で熱化学分野の学習を行なう予定です。そこで、発光現象もエネルギー図で理解できるような話しをして頂きました。
 例え話が、スーパーサイヤ人を用いており、生徒たちからは好評でした。
 
     
 講義が終り、いよいよ実験を行ないます。氷で冷やされたマイクロチューブの中には乾燥した昆虫のホタルが入っていました。    実験はキットになっており、非常に分りやすく実験を行なうことができました。マイクロチューブの色などに工夫がされており間違えにくくなっていました。    齋藤先生の指示に従って、実験が始まりました。先ずは、各班に置かれている試薬や器具の確認を行ないました。
  
       
         
 マイクロチューブの開け方や、何よりもコンタミ(試薬汚染)についての注意を受けました。  今回は1885年に行なわれたDuboisの実験を再現したものを教えて頂きました。昆虫のホタル(尾部)の凍結乾燥品を準備して頂きました。  ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応の基本的な実験を行ないました。昆虫のホタル乾燥品を乳鉢に移し、緩衝液を加えて磨り潰すことを行ないました。
  
       
         
 発光器から発光酵素(ルシフェラーゼ)を抽出しました。また、pHをわずかに変化させることで酵素が変性し、それに対応して発光する色が変化することも確認しました。    昆虫のホタルの発光器を乳鉢で磨り潰しているところです。ちなみに、ノーベル化学賞を受賞した下村先生は5万匹のオワンクラゲから0.002g(2mg)のエクオリンを単離したことを教えて頂きました。    齋藤先生より直接指導を仰ぐことができました。齋藤先生は、ヤコウタケ(Mycena chlorophos)から蛍光物質を抽出されたことがあるそうです。色々な研究についてもお話を伺うことができました。
  
       
         
 乾燥ウミホタル。体長は1〜3mm程度でした。    血液中のヘミンが触媒となってルミノールを発光させる。活性酸素種の検出や定量に用いることができることを教えて頂きました。    ルミノールの発光現象。実験操作が未熟な生徒のコンタミ(試料汚染)によって、反応容器すべてが光出しました。


中央の5員環と6員環のところが「イミダゾピラジン環」と呼ばれる構造
ウミホタルルシフェリン

齋藤先生の実験の様子(ビデオ)

     
 ホタルを使ったDuboisの実験(1885年)の再現実験。昆虫のホタルの発光器を磨り潰し、「発光酵素(ルシフェラーゼ)」を抽出し、発光基質(ルシフェリン)を加えたところ。ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応(L-L反応)    乾燥ウミホタルに水を加え乳鉢で磨り潰したところ。鮮やかな青白い発光現象が観察されました。海棲発光生物が持つ発光物質は似た(イミダゾピラジン環という特徴的な)構造のものが多いと教えて頂きました。

生徒の感想

 ●   基礎研究には多くの努力があり、一つ一つを解明していく苦しみと楽しみを少しだけ知ることができました。最後のルミノールの発光がとても綺麗で驚きました。

 ●    発光現象を利用して食品中の微生物の高感度検出に利用したり、一つの技術が多くの先端領域への応用として展開されていくことに驚きました。医療の分野でもこの技術が利用されているとうかがったので興味深かったです。

 ●    生命現象を分子レベルで考察すると複雑な仕組みだけでなく、教科書で学んだことが出てくることが理解できました。これからも実験の際には注意深く観察しながら、勉強をしていきたいと思いました。



本校は「平成29年度私学版未来の科学者育成プロジェクト推進事業」に茨城県より採択されました。
本校の具体的な実践項目は、次の4点を柱としています。

 @ 学校設定科目「メディカルサイエンス」の新設
 A 理数融合講座・実験講座
 B 江戸川学園取手小学校のアフタースクールへの指導
 C 医科講話・医療教養講座・一日医師体験による医師としての自覚作り

今回は、上記の A に関しての項目となります。