千葉科学大学 出張講義

1. 実施目的  大学の講義を体験し、研究や専門分野の講義を聴くことによって、自然科学の面白さだけでなく、奥深さを体験し、今後の日々の学習に活かすことを目的とする。
(前年度の高等部1年生の夏期には、東邦大学 の 齋藤 良太 先生より「光る分子と先端技術」というテーマで、生命の発光現象に対して物理化学的な視点で考えることができる出張講義を受けました。また、今年度の高等部2年生の夏期には、千葉科学大学 の 川島 裕也 先生より「ルミノールの合成実験」というテーマで、有機化学に関する興味関心を深めることができる出張講義を受けました。)
 今回の実施目的は、大きく2つありました。

@ 分子模型を用いた有機化学の講義
 「異性体」の概念や「官能基」による物性の違いを分子模型を用いて確認すること。

A 医薬品合成でよく用いられる、スクリーニングを模した16種のエステル合成
 4種のカルボン酸と4種のアルコールにより炭素原子の数が異なるエステルを合成し、少しの炭素原子の数の違いで「香り」が異なることを体験する実験を行うこと。16種類の中には柑橘系、もも、リンゴ、メロンのような香りが楽しめ、炭素数に着目した考察を行なうこと。

2. 実施講師 千葉科学大学 薬学部 講師 野口 拓也 先生

3. 実施日程 平成29年12月24日(日曜日)
 
 @ 1校時目 〜 2校時目 :  8:50 〜 10:40
 A 3校時目 〜 4校時目 : 10:50 〜 12:40

4. 参加生徒 @ 高等部2年1組(医科コース)  在籍 24名(事前連絡での欠席者3名) → 21名が参加しました。
A 高等部2年2組(医科コース)  在籍 23名(事前連絡での欠席者3名) → 20名が参加しました。

合成したエステルの分子模型
( C−COO−CH−CH−CH(CH) )

実験の様子

     
 野口先生が木のブロックで作られた立体周期表です。平面のものとは違って色々な性質が連続的になっていることが理解できました。  野口先生は前日23日(土曜日)にも登校されて、実験の準備をして下さいました。実験のお手伝いをしているのは高等部3年生です。後輩の実験の為に、様々な準備をサポートしてくれました。  実験が始まる前の風景です。野口先生が準備をして下さいました。「実験テキスト」だけでなく、色々な実験器具が机にありました。分子模型は各班に一つずつ準備されました。
 
     
 もっとも簡単な有機化合物である メタン(CH)の分子モデルを作りました。分子モデルを作成する際に重要な「価標」に関してもう一度復習しました。    炭素原子を次々につなげていきました。炭素原子2個の時は エタン(C)、炭素原子3個の時は プロパン(C)となっていくことを確認しました。    そして、末端の炭素原子に酸素原子を結合させて 1-プロパノール(CHCHCHOH)を作りました。ここで官能基や構造異性体に関する復習を行ないました。
  
       
         
 炭素原子4個の ブタン(C10)を作成し、構造異性体の数を確認しました。上の写真は直鎖状につながった n-ブタン です。  そして、今回の合成で行なうエステルに関して分子モデルを用いて野口先生が詳しく教えて下さいました。アルコールから H が取れ、カルボン酸から OH が取れて、縮合していく様子を視覚的に分りやすく教えて下さいました。  今回準備して下さったアルコールは4種類でした。一方、カルボン酸も4種類でした。従って、合成される エステル は 4×4=16種類 できます。それぞれ合成する エステル を事前に決めました。
  
       
         
 野口先生より詳細な指示を受けているところです。    液体を試験管に移す際のきめ細やかな指導を受けました。ピペッターの使い方など色々な指導を直接仰ぐことができました。    ドラフトの中には材料となるカルボン酸やアルコールが準備されていました。野口先生の指示に従って液体を取り分けていきました。
  
       
         
 今回の化学実験でも安全に配慮して、安全メガネを付けて実験を行ないました。カルボン酸とアルコールはそれぞれ約1mLずつ入れました。    濃硫酸の滴下に関しては、安全を考慮して野口先生が直接行なって下さいました。濃硫酸は2〜3滴加えました。    良く撹拌した後で、約80℃に調節した湯浴に入れました。
  
       
         
 加熱して反応を促進させているところです。約10分経過したら、水酸化ナトリウム水溶液を約2mL加えてしばらく放置しました。    各班が責任を持って合成したエステルをサンプル瓶に入れて、名称と班名を記入した後で、事前に準備されたところに置いていきました。
   合成されたエステルの臭いを嗅いで、どのような傾向があるのか調べていきました。

使用したアルコール

      組 成 式 Ball and Stick  名称(IUPAC)     名称(慣用名)
 【1】    COH    1-プロパノール
(Propan-1-ol)
   1-プロピルアルコール
 【2】    COH    1-ブタノール
(1-butanol)
   n-ブチルアルコール
 【3】    C11OH    3-メチル-1-ブタノール
(3-methyl-1-butanol)
   イソアミルアルコール
 【4】    CCHOH    ベンジルアルコール
(benzyl alcohol)
   フェニルメタノール

使用したカルボン酸

    組 成 式  Ball and Stick  名称(IUPAC)     名称(慣用名)
 【1】    CHCOOH  酢酸(許容慣用名)
 (acetic acid)

 エタン酸(系統名)
 (ethanoic acid)
   酢酸
 【2】    CCOOH  プロピオン酸(許容慣用名)
 (propionic acid)

 プロパン酸(系統名)
 (propanoic acid)
   プロピオン酸
 【3】    CCOOH  酪酸(許容慣用名)
 (butyric acid)

 ブタン酸(系統名)
 (butyric acid)
   酪酸
 【4】    CCOOH  吉草酸(許容慣用名)
 (valeric acid)

 ペンタン酸(系統名)
 (pentanoic acid)
   吉草酸

生徒の感想

 ●   カルボン酸の臭いが強烈だった。しかし、合成してできたエステルの臭いはまったく異なっていることに驚いた。また、わずかな分子構造の差が臭いに対して大きな違いとなって現れることに対して驚いた。
     
 ●   分子模型に初めて触れ学習をしたけれど、紙で書かれた構造式とは違って分りやすい部分と分りにくい部分があることに気づいた。構造異性体については少しの差で、いろいろな化学的な性質の差が現れることに気づいた。
     
 ●   エステルという化合物を合成したけれども、医薬品となると更に複雑なことが人体に影響しているのだと少し理解することができた。わずかな構造の差で薬理効果に著しい影響が起きていることがわかった。
     
 ●   エステル化や加水分解に対して理解することができた。見えない原子や分子の世界を想像しながら化学反応式を見る重要性を理解することができた。



本校は「平成29年度私学版未来の科学者育成プロジェクト推進事業」に茨城県より採択されました。
本校の具体的な実践項目は、次の4点を柱としています。

 @ 学校設定科目「メディカルサイエンス」の新設
 A 理数融合講座・実験講座
 B 江戸川学園取手小学校のアフタースクールへの指導
 C 医科講話・医療教養講座・一日医師体験による医師としての自覚作り

今回は、上記の A に関しての項目となります。