ウニ飼育実験 第5週目

 平成30年2月26日・28日・3月2日 昼休み・放課後
 
【実験の内容】

1.自分に割り当てられているチューブ内の胚の成長記録を取る
  八腕幼生のウニ原基の状態を確認し、必要であれば変態誘導用の餌を与える
2.給餌(まだ変態誘導出来ていない場合は、月・水・金)、水の取り換え(金)の実施


1.自分に割り当てられているチューブ内の胚の成長記録を取る
  八腕幼生のウニ原基の状態を確認し、必要であれば変態誘導用の餌を与える用指示をしました。
 残りの生徒のウニ原基が胃と同じ大きさになっている、又は八腕幼生の頭部と胴部の部分を一周する形での繊毛が生じ、激しく動くことにより動きが活発に出来るようになっていたために、変態誘導用の餌(プラスチック板に付着している藻類)を入れられる状態になりました。
先週の金曜日(2/23)に変態誘導用の餌を入れた生徒については、月曜日の観察の時点で既に変態完了を確認できる胚がいることを発見し、確認してほしいと教員に声をかけてくる場面が多々ありました。
下記は、八腕幼生の繊毛が激しく動いている様子の動画です。(昨年度撮影したものです)

※再生出来ない場合は《こちら》を試してみて下さい。

2.給餌(月・水・金)、水の取り換え(金)の実施

 実験が順調に進む中で、珪藻を必要とする生徒もほとんどいなくなり(少数ではあっても、まだ変態に至らないからときちんと珪藻を与えて飼育を続けている生徒もおります)、付着藻類を必要とする生徒が多数となりました。
昨年は付着藻類のプラスチック板に色々な生き物が潜んでいましたが、今年度についてはこのようなことを言ってくる生徒がいないのは、昨年度のような影響を受けていないものと考えられます。
昨年見られた、ケンミジンコについても、今年は発見できていません。
ただし、変態に失敗したためか入っていたはずの八腕幼生が消えてしまったという生徒も一部おりますが、多くの生徒は変態が順調に進み、チューブの下の方にくっついていて出しづらいという声が多くありました。


実験結果からの疑問など

今年度の実験は、お茶の水女子大学の清本先生から指示頂いた人工海水をアルカリイオン水(市販のミネラルウォーター)とカルキ抜き水道水の2種類に溶かし使用することでの生育の違いが出てくるかを、学校での3Lビーカーの飼育実験の中では行ってきました。
経過については、本HP上でも掲載してきましたが、6腕幼生位までについては相違が生じました。
(受精〜プルテウス幼生)アルカリイオン水:正常発生、形状も正常
            カルキ抜き水道水:正常発生、形状の一部がいびつな形、少し成長が遅め
(4腕幼生まで)    アルカリイオン水:正常発生、形状も正常
            カルキ抜き水道水:正常発生、頭部の形状がいびつな形、成長遅め
(6腕幼生まで)    アルカリイオン水:正常発生、個体群密度が成長速度に大きく影響
            カルキ抜き水道水:正常発生、形状も正常になってきて、成長速度も追いつく
(8腕幼生まで)    アルカリイオン水:正常発生、個体群密度の高いものは腕の伸び、形状の成長が遅め
                     受精のタイミング(2日、半日の違い)の影響はほぼ関係なくなる
            カルキ抜き水道水:正常発生、形状も正常で成長が早め
(稚ウニへの変態)   アルカリイオン水:個体群密度の高さで成功に影響があり、また受精が早かったものほど
                     変態が早いことが確認できた
                     1/25受精のものは高確率で変態しているが、1/27の午後のものは
                     あまり変態していないことが確認できている
            カルキ抜き水道水:変態の成功率が高く、かなりの個体が変態していることが確認できた

また、昨年の人工海水では6腕幼生から8腕幼生への変態が上手くいかずに大量に死んでしまうということがありましたが、今年は人工海水によって生育に影響が出るような場面が特にはありませんでした。
人工海水の種類によっての影響であるかを即決するには、同時実験をしていない為断言はできないものの多少の影響はあるものと考えられます。
今年の課題としては、稚ウニへの変態については、アルカリイオン水+人工海水よりもカルキ抜き水道水+人工海水の方が状態が良かったことから、変態とpHの関係についてです。
アルカリイオン水はpH8位のため、中性前後のミネラルウォータとカルキ抜き水道水を比較した時に違いが出るのかどうかによっては、八腕幼生までは影響を受けてこなかったpHが、変態には大きく影響することになります。

また、生徒が生育している幼生については、ウニ原基が出来ないといった話が出てこなかったことから、個体群密度管理の影響が大きいことが予想されました。
ただし、個数を絞って行っているためにいなくなってしまった(死んで分解されてしまったものと思われます)、死んでしまったなどのケース時に学校で並行作業にて飼育しているウニを里子にもらって継続実験するケースが多く、少数個体を確実に飼育するための条件などについて調べることも今後の課題として残されました。

 昨年と同様にして、今後もここまで進めてきた稚ウニの飼育を出来るのならば自身の手で育てたいのでどうしたら良いか?という質問も出始めました。
昨年に学校内にて11/27まで(2cm大位の大きさまで)飼育して生きた経験からの飼育ポイントなどを伝え、サポートをしていく考えではおりますが、特に夏場の温度管理が難しいことなどは十分に注意をしておきたいと考えております。

 今回の参加者は、中学3年生を中心に、生物の教科内にて発生を学んでいない生徒が多数でした。
しかし、卵と精子の受精による変化、そこから卵割後にプルテウス幼生から八腕幼生までの変化、最後に稚ウニとしての大きな変態まで、自分自身の手で育て変化を観察し続けてきたことにより得た知識と経験は大きなものであったと想定されます。ここまで自分たちが観察し、関わってきたことをデータとして整理し、受精から稚ウニへの変態までの観察とレポート作成を作成することによって知識の整理も出来てくるはずです。
これから参加した生徒は自分の体験してきたことをきちんと言葉で表現することの難しさを体験します。
彼らにとっての今回の実験が、感受性と生き物に対する責任感を育てる上で良い経験になったことは間違いないでしょう。

3Lビーカー内の発生進捗(3/2現在)

ビーカー1 ミネラルウォータの人工海水 + 1/25 受精卵
ビーカー2 ミネラルウォータの人工海水 +1/27 AM9:10 受精卵
ビーカー3 ミネラルウォータの人工海水 + 1/27 PM3:00 受精卵
ビーカー4 カルキ抜き水道水の人工海水 + 1/27 PM2:30 受精卵

     
ビーカー1  3/2(金)時点では8腕幼生の綺麗な形状とウニ原基がかなり大きく成長していることが確認できました。
この後、3Lビーカーに付着珪藻を入れ、まとめて変態誘導を開始しました。
ビーカー1  2/26(月)に一部取り出し300mLビーカーにて変態誘導を行い成功したものです。(3/2での観察)
管足を動かしながら活発に動き回る様子が観察出来ました。
ビーカー1 左と同条件で別のウニを観察したものです。(3/2での観察)
棘も管足もしっかりとしており、変態が成功していました。
ビーカー2 3/2(金)時点で8腕幼生に完全になっており、ウニ原基も大きくなっていました。
この後、3Lビーカーに付着珪藻を入れ、まとめて変態誘導を開始しました。
ビーカー2 2/26(月)に一部取り出し300mLビーカーにて変態誘導を行い成功したものです。(3/2での観察)
ただし、状態は良いものではなく、元気がありませんでした。
場合によっては、このまま死んでしまうかもしれないような状態でした。
ビーカー3 3/2(金)時点で8腕幼生にはなっていましたが、他のものに比べるとウニ原基がまだ育ちきっていない感じでした。
稚ウニへ変態するにはもう少し成長させる必要がありそうでした。
変態したものは、既に死んでいるものでした。
ビーカー4 3/2(金)時点で8腕幼生に完全になっており、ウニ原基も大きくなっていました。
この後、3Lビーカーに付着珪藻を入れ、まとめて変態誘導を開始しました。

ビーカー4 2/26(月)に一部取り出し300mLビーカーにて変態誘導を行い成功したものです。(3/2での観察)
管足を動かしながら活発に動き回る様子が観察出来ました。
12月末の研修で頂き、1月に稚ウニになっていたアカウニは結局1匹しか残らず、これが残ったものです。
バフンウニと比べてみるとトゲトゲした形状などやはり違いがあります。
また、1か月早く成長していたこともあり、大きさも大きくなっていました。

観察での様子と胚の変化

      
       
 生徒の稚ウニから。K君が変態したばかりの稚ウニを綺麗に撮影しました。    KさんとKさんによる稚ウニ撮影の写真から。こちらも綺麗に変態していました。    Kさんによる稚ウニの横から撮影写真。
       
 Kさんの稚ウニの動作ビデオ。    稚ウニの棘の形状には2種類あり、それぞれ成体型棘、幼生型棘と名称があるのだそうです。
今年もこの棘の違いまでよく観察出来ました。
   
     
昨年撮影をしたワカメを食べている稚ウニの動画  同じくワカメを食べている稚ウニの動画