幹細胞かるた大会

メディカルサイエンス(学校設定科目)の新設

 高等部1年生から3年生に、学校設定教科として「理数科」を新設し、その中に学校設定科目として「メディカルサイエンス」を設置し、医師としての素養を育むことができる教育プログラムを立ち上げました。3学年とも同時間に授業を設定し、縦関係のつながりをより深め、互いに教え、学び合う協働の活動を実践していきます
 既存の科目の内容を深化しつつも、特に、将来医師を目標とする生徒に向けて、その資質や能力を伸ばしていくためには教科の枠組みを越えた新しい学校設定科目の設立が重要だと考えました。現代に課せられている医療分野の諸問題や、観察・実験を通して科学的思考を更に深めるために、大学の先生方の協力を仰ぎつつも本校の教育目標に照らし合せて「メディカルサイエンス」を立ち上げ、様々な見地から研究を行っていくことが目的となります。
 今年度のメディカルサイエンスの授業時間は、金曜日6校時(14:30~15:20)となりました。

医療問題(再生医療社会における問題点の検討)

 京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞やiPS細胞を用いた治療の研究などにより、再生医療の最先端技術は国民にもその存在を知られるようになりました。しかし、我々一般市民にとっては、期待とともに不安を感じるところにあります。そこで、本講義「メディカルサイエンス」では、将来医師を目指している医科コース生徒を対象にして、再生医療について概要を学び、未来の再生医療の問題点について議論できる生徒の育成を目指します。

 医療問題に関しては、茨城大学教育学部養護教諭養成課程基礎医学研究室の石原研治教授から指導を仰ぎます。その授業の後には、先生から課題が与えられて、それぞれの生徒が課題に取り組みレポート作成を行ないます。発表の準備の際において、時には縦断的に学年を越えて生徒間での指導を行わせ、互いに刺激し合い、切磋琢磨できる教育環境も整えていきます。


 2007 年,京都大学 iPS 細胞研究所 (CiRA) の山中伸弥教授がヒト iPS 細胞を樹立しました。その報告を受けて,文部科学省や厚生労働省などの省庁,京都大学,慶応大学,東京大学,理化学研究所などの研究機関をはじめとする国の諸機関は再生医療の実現に向けて大きく動き出しました。2014 年 9 月には,世界ではじめての iPS 細胞を用いた臨床試験が理化学研究所で行われました。このように,国の諸機関が国民の QOL 向上を目指して,これまで治療不可能であった疾患に対して iPS 細胞による再生医療という新しい切り口によって目覚ましい成果をあげ,再生医療が国民の医療の選択肢の一つになることも現実味を帯びてきました。
 私たちの生活する「社会」は様々な立場や考えが有機的に繋がり,国民一人ひとりがその社会を支え成り立っています。しかしながら,iPS 細胞が樹立され再生医療という新しい医療技術が生まれつつある現段階では,それを受け入れるための社会はまだ確立されていません。医療は私たち社会で生活する一人ひとりのものです。再生医療を一つの医療として受け入れるための社会とはどうあるべきなのか,私たちは「再生医療」を「最先端技術」「医学」という側面だけで捉えるのではなく,社会を担う者として幅広い視野に立って「再生医療」を眺め,社会的な面で国民の QOL 向上を目指すべきです。
 そこで,本講義「メディカルサイエンス」では,再生医療の現状を医学・科学・倫理的な面から理解した上で,新しい再生医療を社会的な面からも創造し,国民一人ひとりのための再生医療社会を創出できる力を養うことを目標とします。

到達目標

 メディカルサイエンスの到達目標は以下の通りです。

【1】  iPS 細胞の発見の経緯など科学的背景,国や大学等が進める再生医療社会実現に向けた現状を理解できる。
【2】  再生医療等の最先端研究を進める上での倫理的課題を理解し,幅広い意見を聞きながら自分の考えが持てる。
【3】  相手の立場を理解しながら話し伝えることができるようになる。
【4】  大学進学,そして社会人という人生を歩む過程の中で,日々進歩する科学技術を理解し,社会に果たす自分の役割を認識できるようになる。

茨城大学教育学部教授 石原 研治 先生 のシラバスより引用しました。

 今回、上記の到達目標【3】を更に深める為に、江戸川学園取手小学校(5年生児童)に「幹細胞かるた」を教材にした授業を行ないました。
今まで学習をしてきた再生医療に関する知識を、小学生児童に対していかに分りやすく伝えるのかが重要な目標となります。

幹細胞かるた

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が幹細胞の基本的知識について、遊びながら学べるかるたをつくりました。

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/karuta.html

 今回は、「幹細胞かるた」を用いて、高等部医科コース生が、かるたに書かれている用語の解説など行ないました。

かるた作成

     
 今回は江戸川学園取手小学校5年生3クラス分のかるたを作成する必要がありました。
自然科学棟の一角で行ないました。
今回は 3クラス × 6班 = 18セット が必要になりました。
 生徒の中から「かるた大会実行委員会」を組織して、その委員会の一部の生徒が18セットのかるたを作成しました。  データはネット上にあるのですが、それを印刷し、ラミネート加工するのもかなりの時間を要しました。
角を丸めるなど児童の安全を考えた配慮もしました。

1月12日(金曜日) 専門用語の学習会

対 象 生 徒 ・ 児 童

江戸川学園取手小学校   5年生     68名
江戸川学園取手高等学校 1年生(医科コース生)    51名
江戸川学園取手高等学校 2年生(医科コース生)    47名

会 場

江戸川学園取手高等学校 大ホール

     
 小学生児童が江戸川学園取手高等学校の大ホールに集まりました。そこから18班に分かれて用語の説明を行ないました。  児童に分りやすく説明するために、事前に準備した資料を作成した生徒もいました。  児童は予め分らなかった用語を紙に書き出していました。それを受けて専門用語の解説を高校生たちが行ないました。
 
     
 小学生の児童たちも一生懸命にノートを取りならが説明を受けていました。    授業で使っている図録など用いて、色々と説明を行なう生徒もいました。    京都大学iPS細胞研究所が制作した「幹細胞かるた」です。綺麗なイラストが印象的でした。

1月19日(金曜日) 幹細胞かるた大会

対 象 生 徒 ・ 児 童

江戸川学園取手小学校   5年生     68名
江戸川学園取手高等学校 2年生(医科コース生)    47名

   ※ 高等部1年生は、教室で「幹細胞かるた」の改善点など行ないました。

会 場

江戸川学園取手小学校 5年生各教室

http://es.e-t.ed.jp/

     
 今回は高等部2年生が江戸川学年取手小学校に行って、「幹細胞かるた」大会を行ないます。  小学校の教室に入り、先ずは元気に挨拶から始まりました。  「かるた大会実行委員会」から今回のルールについての説明がありました。
 
     
 小学校の教室の様子です。模造紙の上にかるたをおいて、小学生の児童と高校生の生徒のチーム戦を行ないました。    パステル調のとても美しいイラストのかるたですが、その内容はかなり難しく、説明した高校生も勉強になりました。    今回の「幹細胞かるた大会」の結果は、高校生の惨敗でした。小学生たちは1週間でほとんどのかるたを覚えている様子でした。

幹細胞かるた大会の様子(ビデオ)

     
 生徒が読み手となっている様子です。かるたの枚数が少なくなってきたので、手を頭の上に置いて不正することを防止しました。これも実行委員の生徒たちが考えた工夫です。    小学校の内丸先生(国語)が読み手となっている様子です。ただ、読み札を読むのでなく、簡単なクイズ形式にするなど工夫をされていました。


事後アンケート

「幹細胞かるた」の説明会で、説明に特に気をつけたことは何でしたか。

 ●    難しい言葉はなるべく使わないようにしたり、骨折に関しては体験をもとに説明をした。

 ●    一方的に教え込むのではなく、楽しみながら一緒に学んでいった。

 ●    小学生と同じくらいの高さの目線になって説明したこと。

 ●    ある言葉を説明する時に、説明するために使う用語を小学生が知らないことがあったので、そこから説明するように心がけた。

 ●    小学生でもかなりの知識を持っていたので大雑把に説明しすぎてしまうとさらに疑問がわいてしまうので難しすぎず簡単すぎずといういい具合に説明できるように頑張りました。

 ●    漢字がたくさんの言葉とか専門用語を使わないように、出来るだけ例えとかイメージで伝えるようにしました。


「幹細胞かるた」の説明会で、自分の説明が児童に「伝わったな」と実感できたのは、どのような伝え方をしたときでしたか。

 ●    身近なことを例に説明したとき。

 ●    あらかじめ作った資料や写真を使って説明したとき。

 ●    ES細胞とiPS細胞の違いを説明する時、ES細胞には倫理的問題が残ることを、「将来赤ちゃんになる受精卵が〜」と具体的な例えを使ったとき。

 ●    絵を描いて伝えたとき。

 ●    DNAの構造を階段で説明したところです。

 ●    具体例がすんなりと提示できたとき。


自分の説明が伝わりにくかったなと思うのは、どのような伝え方をしたときですか。

 ●    難しい専門用語や横文字を使ってしまったとき。

 ●    プラスミドの説明の時にDNA、遺伝子、染色体と、小学生に対して分りづらい単語を沢山並べてしまったとき。

 ●    遺伝子の文字はそのように決まっているとしか説明できないと伝えたとき。

 ●    言葉だけで伝えてた時 事前準備が整ってなかったとき。

 ●    どうしても専門的な用語を簡単にできなかったとき。

 ●    自分の中でうまくまとまっていなかったとき。


「幹細胞かるた」の説明会の経験は、将来医療者として難解な事を説明するときに、どのような点が役立つ経験だったと思いますか。

 ●    難解な医療用語の意味を、ちゃんと理解していればわかりやすく伝えられること。

 ●    医師と患者では持っている知識が全然違うので、知識を持っていない人でもわかるように説明しなければいけなかったことです。

 ●    自分が一方的に伝えるのではなく、相手が正しく理解出来ているかどうか確認しつつ、違う言葉で説明すること。

 ●    まったく知識量の異なる人に、いかに分かりやすく説明できるか。相手も主体的になって話を聞かせること。

 ●    自分では分かっていても、それを言葉にして患者さんに伝えることができなければいけないという点です。

 ●    難しい言葉をいかにして簡単にわかりやすく説明したり、身近な例で例えたりすると言う点です。


「幹細胞かるた大会」をみんなで一緒に作り上げたこの経験を、将来医療従事者として、また、様々なボランティア活動を通じて患者や高齢者の方々と接する際に、どのように役立てようと思いますか。

 ●    小学生だからといって自分より知識が劣っているということはなく、むしろ教えられる事も多くあった。これと同じように、患者や高齢者も医師より弱い立場ではなく、同等だということを意識して、一緒に病気に向き合えるようにしたい。

 ●    初対面であるならなおさら、患者さんや高齢者の方には私たちと話すのは怖いと思っている人もいると思うので、私たちの立場から患者さんや高齢者の方に話しかけ、暖かい雰囲気をつくること。

 ●    相手がどこまで理解しているのかをしっかりと知る必要があると思いました。そのために相手の話をしっかりと聞き、同意することも大切であると感じました。

 ●    何よりも楽しもうという態勢をもってボランティアなどに臨みたいです。 難しいことの説明は、知るべきことだけに絞って説明するようにしたいです。

 ●    相手の話を聞いてからこっちからの話をすることが大切だと感じ、それを実践したいと思った。

 ●    年が離れていても少しのきっかけで楽しく話せるようになることを学べたため、そのきっかけを自分から作っていけるようにしたい。


なお、この活動をまとめ、第17回日本再生医療学会 中高生のためのセッション の ポスターで発表する予定です。

http://www2.convention.co.jp/17jsrm/session/basic.html


本校は「平成29年度私学版未来の科学者育成プロジェクト推進事業」に茨城県より採択されました。
本校の具体的な実践項目は、次の4点を柱としています。

 ① 学校設定科目「メディカルサイエンス」の新設
 ② 理数融合講座・実験講座
 ③ 江戸川学園取手小学校のアフタースクールへの指導
 ④ 医科講話・医療教養講座・一日医師体験による医師としての自覚作り

今回は、上記の ① に関しての項目となります。