東邦大学 出張講義

1. 実施目的 大学の講義を体験し、研究や専門分野の講義を聴くことによって、自然科学の面白さだけでなく、奥深さを体験し、今後の日々の学習に活かすことを目的とする。
(前年度も、同じ内容で実験をして頂いて、参加した生徒たちからは非常に好評だった講義の一つでした。そこでお忙しい先生ですが、今年度も大学の方にお願いをして講義をして頂ける機会となりました。 前年度の実験の様子

2. 実施講師 東邦大学大学 理学部 物理学科 物性物理学教室 教授 西尾 豊

3. 実施日程 平成29年7月25日(火曜日)
 
 @ 1校時目 〜 2校時目 :  8:50 〜 10:40
 A 3校時目 〜 4校時目 : 10:50 〜 12:40

4. 参加生徒 @ 高等部1年1組(医科コース) 26名
A 高等部1年2組(医科コース) 25名

 5.  講義内容    「マイナス200度の世界を体験しよう」
 液体窒素を用いて低温の世界を体験します。極低温の世界では空気が液体あるいは固体となる世界です。我々が生活し体験している(高温の)世界では考えられない超伝導などの世界を体験しましょう。

参加した1年2組の生徒と西尾先生(中央上段)との集合写真です。
本校自然科学棟 化学実験室β において

実験の様子

     
 今年も充分に安全に配慮しながら、卓越したお話と一緒に液体窒素を用いた実験が始まりました。大量に入れた液体窒素の中に手を入れる西尾先生です。  インターネットやテレビなどでは見たことがありますが、実際に体験する生徒はほとんどいませんでした。はじめはやっぱり怖がる生徒たちです。  目の前の不思議な現象を、物理の正しい視点で捉える大切さを学びました。なぜそのような現象が起きているのか、考える重要性を教えて頂きました。
 
     
 大きく膨らました風船です。常温常圧ではこのサイズ(約30cm)ですが…
 定圧条件下での温度変化に伴う気体の体積の変化を観察しました。(シャルルの法則の検証)
   液体窒素の入っている容器には入りきらない程の風船の大きさです。しかし、先生が上から静かに液体窒素を注いでいくと…。    普通の風船のゴム膜の音でなく、薄いビニール袋を擦った時に生じる乾いたカサカサした音がしました。そして、風船は小さくなり液体窒素の入った容器の中に入ってしまいました。
  
       
         
 しばらくして、西尾先生が液体窒素の中から萎んだ風船を取り上げます。ゴム風船が小さくなった理由は、もしかしたら、ゴム膜に穴が開いたのかも知れません。  小さく萎んだ風船は、ビニール袋のような乾いたカサカサした音がしました。しばらくすると萎んでいた風船が大きくなっていきました。  最後には白い粉状の物質が残りましたが、数秒のうちにそれもなくなってしまいました。この正体は空気中に含まれる二酸化炭素(ドライアイス)であることを教えて頂きました。
  
       
         
 西尾先生がご専門としている「超伝導物質」を取り出して、液体窒素に浸して冷却しました。天ぷらを揚げている音がしました。    非常に強いネオジム磁石を上に乗せると非常に不思議なことに浮き上がって安定しました。磁石のように反発していますが、どの向きでも反発します。S極やN極とは違っているようでした。    上のネオジム磁石を回転させると安定して回りました。どこにも接していないので抵抗が少なく、一度回転させると、いつまでも勢いよく回転が続いていました。非常に不思議な光景でした。
  
       
         
 西尾先生は反発力をすべての生徒たちに感じてもらうために、浮き上がったネオジム磁石をもって生徒の近くまで来て下さいました。このような経験は実際に実験をしてみないと伝わりにくいことだと思います。    さらに実験は展開していきました。ネオジム磁石の上に冷やした超伝導物質を乗せる準備をしている様子です。    ドーナッツ状のネオジム磁石の上に浮かび上がる超伝導物質です。(紙に包まれている状態です。)お互いは反発し合い、摩擦の少ない状態で回転し続けていました。

西尾先生の実験の様子(ビデオ)

         
 空気が入っている風船の上から液体窒素を注いでいる様子です。液体窒素(−196℃)によって冷やされて、白い風船の体積が少しずつ小さくなっていく様子が観察されました。    冷やされて萎んだ風船の一部をハサミで切り取り中身を出すと、空気が冷やされて液体窒素となっていました。しかし、いろいろな混合物の状態なので白くなっていることも分りました。    液体窒素を実験台の上にこぼす実験を行いました。ライデンフロスト効果(Leidenfrost effect)が観察されました。すぐに気体にならず、安定した液体窒素の液滴が摩擦の少ない状態で運動していることが分りました。
         
         
 西尾先生は反発力をすべての生徒たちに感じてもらうために、浮き上がったネオジム磁石をもって生徒の近くまで来て下さいました。
 実験の様子を見に来て下さった竹澤校長先生も実際に触れてみて、その感触を体験していました。
   ドーナッツ状のネオジム磁石の上に浮かび上がる超伝導物質です。(紙に包まれている状態です。)お互いは反発し合い、摩擦の少ない状態で回転し続けていました。その間にコピー用紙を入れても何もない空間であることが分ります。    西尾先生の最後の実験です。豪快な実験の一つなので生徒の印象深いものとなりました。廊下に生徒を並ばせて、その間に液体窒素を流しました。大規模でのライデンフロスト効果を観察することができました。

生徒の感想

 ●    液体窒素はインターネットやテレビなどで見たことがありましたが、実際に手で触れたり、いろいろな不思議な現象を生で見るのは初めてでした。大きな風船が冷やされて小さくなっていく様子を見ていると、とても不思議に思いました。最後に行った液体窒素を廊下にこぼす実験はすごく美しかったです。

 ●    液体窒素を空き缶に入れて、液体酸素を作る実験が印象的でした。液体酸素の色は淡青色で磁石に引きつけられることも初めて知りました。また、酸素の沸点は−183℃であり、窒素の沸点の−196℃よりわずかに高いだけですが、凝縮されて缶表面が濡れ出したり不思議なことを見て、考えることができました。液体酸素の中に火の付いた線香を入れると、火は消えると思っていましたが、勢いよく燃えだし驚きました。西尾先生が実験を行う度に、「再現性が重要です。」と言って、笑顔で何度も何度も実験を繰り返す仕草を見て科学者の姿勢を垣間見たような気がしました。

 ●    超伝導物質の仕組みは良くわからなかったのですが、低温で起きる不思議な世界に興味を持ちました。低温にするだけで不思議な現象が起き、いろいろな科学者たちが貢献してきたことを知りました。また、理学で研究することと、医学で研究することの本質の違いを最後に教えて下さりました。どの視点で興味関心を持つべきか考えることができました。