海辺の生物体験 減数分裂の観察

湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)から見た夕日【パノラマ写真】

 目 的  :  21世紀における科学技術人材育成の中で、我々人類も含め、生命の本質を理解するためには、様々な生き物の生態について正しく理解することが大切です。今回、海辺の実際の生命現象を様々な視点から実験・観察することを通して、生命の本質についてのの探求心を養うことを目的に「海辺の生物体験」を実施することになりました。このプログラムは、お茶の水女子大学と提携したもので、主にヒトデを用いた減数分裂の観察を行いました。

 場 所  :  お茶の水女子大学 湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)
〒294-0301
千葉県館山市香11

 日 程  :  平成29年5月20日(土曜日) 〜 21日(日曜日)

 参加生徒  :  8名

 引率教諭 :   医 科 コ ー ス 長
 兼 龍盛

学校を出発するバス【見送りをして頂いた 遠藤 実由喜 先生 が撮影して下さいました】


5月20日 (土曜日)

 8:30    学校集合 (華美にならず、実験のしやすい服装)
 9:00    学校出発 (バス中型27人乗り)
 11:45    現地到着予定
 12:00    開講式 及び 実験ガイダンス
12:30    昼食
 13:00    ヒトデを用いた減数分裂の観察 @
 18:00    夕食
 19:00    講義 細胞の分裂 (基幹研究院自然科学系 准教授 清本正人 先生)
 ウミホタルの採取 ← 先生のご厚意によって予定の講義内容を変更致しました
 22:00    入浴・就寝


5月21日 (日曜日)

7:00    朝食
8:00    ヒトデを用いた減数分裂の観察 A ← 先生のご厚意によって予定より早めの時間に変更致しました
11:30    閉講式
12:00    昼食
13:00    現地出発(バス中型27人乗り)
16:00    学校到着

湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)前での集合写真

4月15日(土曜日)

         
 開講式の様子です。今回は40周年記念体育祭の1週間前ということもあり、参加生徒は高校3年生が主で8名となりました。    清本先生が直接イトマキヒトデの解剖をして下さいました。その際ヒトデに特徴的な五放射の構造を教えて下さいました。    雌のイトマキヒトデの管足の近くにハサミを少しだけ入れて切り出し、ピンセットで摘んで卵巣を取り出して下さいました。
         
         
 ヒトデ類はウニやナマコなどと共に棘皮動物というグループに所属しています。その共通した仕組みを教えて下さいました。    熟成した卵巣に1-メチルアデニン水溶液を加えることによって収縮が始まり、卵が生み出されていく様子を観察しました。    双眼実体顕微鏡の取り扱いを学びました。そこで、同調した受精卵の発生の様子を観察しました。
         
         
 熟成した卵母細胞の周囲にある「濾胞細胞」などの様子も観察しました。    卵成熟の過程を観察しました。卵母細胞の核が消失して減数分裂が再開していく様子が観察されました。    清本先生の顕微鏡を用いて全員でもう一度減数分裂の様子を観察しました。小さな「極体」の形成が観察されました。
         
         
 イトマキヒトデの放射神経の場所を教えて頂きました。    全員でイトマキヒトデの放射神経の採取を行いました。細かい作業なので、非常に苦労しました。    管足の近くにある淡黄色した放射神経を探しました。なかなか見つけることができなかったので、先生に教えて頂きました。
         
         
 放射神経からペプチドホルモンを抽出しました。そして、それを清本先生から指定された濃度に希釈しました。    初めてのマイクロピペッターの操作だったので清本先生が詳細に教えて下さいました。    放射神経から出たペプチドホルモンが、卵の周囲の濾胞細胞に作用し、1-メチルアデニンを合成し、これを切っ掛けとして次々に減数分裂が引き起こされていきました。
         
         
 採取されたイトマキヒトデの卵巣の様子です。    卵成熟誘起ホルモンである1-メチルアデニン溶液をかけてほとんどの卵が二細胞期になった様子です。    清本先生は放射神経から抽出したホルモンが作用していることを講義して下さいました。
         
         
 富士山の頂きに夕日が落ちていく様子をみんなで観察しました。    今回の減数分裂の観察に参加した高等部38期生(医科コース)の5名です。    夕食後に受精卵を観察すると、桑実胚にまで成長していました。
         
         
 今回も天候に恵まれたので、ウミホタルの採取に行きました。残念ながら、陸上のホタルを見ることはできませんでした。    今回は風が強かったのですが、夜光虫が多く波のような刺激があると海面が青く光り出しました。    容器に衝撃を与えると青白いウミホタルの発光現象が観察されました。
         
         
 捕集用の網の中に採取されたウミホタルの光です。非常に美しく誰もが魅了されました。    研究室に戻り、清本先生の顕微鏡で観察しました。ウミホタルの体の構造など詳しく教えて頂きました。    電気の刺激を与えると、水槽の中は全体的に青白く光り出しました。ウミホタルから出た化学物質によって発光しました。

湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)前で採取した貝殻の写真

4月16日(日曜日)

         
 朝食の様子です。今回の海辺の生物体験では、野外教育施設の食堂を利用させて頂きました。    今回は研究所の賄いの方が忙しく、すべてお弁当でした。そして、みんなで配膳を行ってから食事を行いました。    朝の実習を1時間早めることができたので、昨日との成長の違いを観察しました。色々な条件で発生の様子に大きな違いが現れました。
         
         
 清本先生によるヒトデの卵の発生の講義の板書。細胞の分化の違いなど高校の教科書よりも深い内容を詳しく教えて下さいました。    初期卵割期胚から胞胚そして原腸胚までの成長の様子を清本先生が教えて下さいました。その後、木靴のような「ビピンナリア幼生」に成長していきます。    ヒトデの「ビピンナリア幼生」とウニの「プリズム幼生」の比較を行いました。大きさだけでなく骨の形成の違いが明確となりました。
         
         
 偏光を利用するとヒトデの骨格の様子が詳しく観察されました。五放射の基本骨格がまるで雪の結晶のようでした。    観察に使用した顕微鏡のレンズをレンズペーパーを用いて清掃している様子です。    海洋生物の観察なので使用した顕微鏡に塩が付着しているので純水で濡らした布で全体を拭き掃除しました。
         
         
 メカニカルステージや試料台など汚れていそうなところを念入りに清掃しました。2日間一人2台ずつお借りしました。    断線などに配慮しつつコードも丁寧に拭き掃除を行いました。    朝起きると潮が引いていたので海岸を歩くと、色々な「タカラガイ」を見つけることができました。
         
         
 研究室に飼われている動物を次々に観察させて頂きました。棘皮動物だけでなく、色々な風変わりな動物も見せて頂きました。    非常に珍しい棘皮動物を見せて頂きました。「ウニ」「ヒトデ」「クモヒトデ」「ナマコ」「ウミユリ」の仲間を見せて頂きました。    棘皮動物の共通点や進化の過程での違いなど教えて下さいました。
         
         
 使用した実験室の清掃を全員で行いました。高校3年生が率先して掃き掃除を行いました。後輩達はそれをサポートしました。    2日間利用させて頂いた実験室の隅々まで清掃させて頂きました。    高校3年生が集めたゴミを後輩がちり取りで回収していきました。自然とそのような役割分担ができるようになるのも、この体験学習では重要な事だと考えています。

参加した生徒の感想

 ウニの発生に関しては、前年度の「海辺の生物体験」に参加させて頂き観察した経験がありました。その際は、塩化カリウム水溶液による刺激によって放卵されましたが、今回のヒトデではホルモンによるものでした。この複雑な過程を解明するのに日本人の科学者達が多く係わっていることを知りました。また、清本先生が解剖して下さったヒトデの神経を取り出すのが非常に難しかったです。その後、神経に含まれる微量なホルモンを抽出してその生理活性を調べました。マイクロピペットを使う機会は高校ではないのですが、先生が丁寧に教えて下さったので希釈も上手くできたと思います。そして、受精卵に及ぼす影響を調べました。室温や受精卵の濃度など多くの影響があってその後の発生過程に大きな違いが現れることも顕微鏡観察をしていると顕著に出ることも興味深かったです。そして、今回も先生の計らいでウミホタルを観察することができました。夜空に輝く星座も綺麗でしたが、ウミホタルの青白い発光現象は非常に美しく印象的でした。

 偏光板を利用した幼生の骨の観察が非常に美しかったです。ウニのプルテウス幼生には、骨があるために特徴的な三角錐の形が保たれることが分かりました。そこに大きな骨が偏光によって美しく輝いていました。しかし、ヒトデには早期に骨ができていないので体を支えるものがなく、特徴的なオランダの木靴のような形をした「ビピンナリア幼生」となることも理解することができました。そして、透明な姿なので内部の様子も観察でき、ケイ藻を食べる姿を見ていると生命の不思議さを体験しました。そして、先生に育てて頂いた骨が形成された幼生を観察すると、まるで雪のような美しい対称性に感動しました。

引率した教員の感想

 今回はヒトデを利用した「減数分裂」の観察でした。減数分裂は教科書において二回連続した分裂が行われた後に、受精するようなイメージがありました。しかし、実際の生物では種に応じて色々なタイミングで受精が起きていることを清本先生の講義によって初めて知りました。そして、顕微鏡の観察によってヒトデの受精の様子や受精卵の発生の過程を観察することができました。ヒトデの受精卵は透明度が高く内部の様子も詳しく観察することができました。はっきりと見えていた核が消失したり、外側を覆っていた濾胞細胞が外れたり、プログラムされた生命の仕組みに驚きました。また、多くの日本人の基礎研究によってヒトデの卵成熟誘起ホルモンである「1-メチルアデニン」が発見されたことに関する講話を聴かせて頂きました。そこでは基礎研究の面白さだけでなく、様々な困難に対して挑戦していく研究者の大切な姿勢も教えて頂きました。
 生命現象は勿論ですが、我々の周りにある自然は不思議で満ちあふれています。高校での勉強は基礎研究を行うために必要不可欠な素養となります。そして、大学や大学院で更に学び続け、色々な不思議に対する答えを自分で解決できるようにして欲しいと願っています。今回の実験や演習は、本校では初めての内容でしたが、きっと生徒たちの知的好奇心を揺さぶる良き切っ掛けとなったと確信しています。

医科コース長 兼 龍盛(化学担当)


本校は「平成29年度私学版未来の科学者育成プロジェクト推進事業」に茨城県より採択されました。
本校の具体的な実践項目は、次の4点を柱としています。

 @ 学校設定科目「メディカルサイエンス」の新設
 A 理数融合講座・実験講座
 B 江戸川学園取手小学校のアフタースクールの指導
 C 医科講話・医療教養講座・一日医師体験による医師としての自覚作り

今回は、上記の A に関しての項目となります。