メディカルサイエンス 第3回目 4月21日



茨城大学教育学部教授 石原 研治 先生 による全体講話の様子

メディカルサイエンス(学校設定科目)の新設

 高等部1年生から3年生に、学校設定教科として「理数科」を新設し、その中に学校設定科目として「メディカルサイエンス」を設置し、医師としての素養を育むことができる教育プログラムを立ち上げました。3学年とも同時間に授業を設定し、縦関係のつながりをより深め、互いに教え、学び合う協働の活動を実践していきます
 既存の科目の内容を深化しつつも、特に、将来医師を目標とする生徒に向けて、その資質や能力を伸ばしていくためには教科の枠組みを越えた新しい学校設定科目の設立が重要だと考えました。現代に課せられている医療分野の諸問題や、観察・実験を通して科学的思考を更に深めるために、大学の先生方の協力を仰ぎつつも本校の教育目標に照らし合せて「メディカルサイエンス」を立ち上げ、様々な見知から研究を行っていくことが目的となります。
 今年度のメディカルサイエンスの授業時間は、金曜日6校時(14:30〜15:20)となりました。

メディカルサイエンスの内容

メディカルサイエンスは以下の4つの項目から成り立ちます。内容は「医科」に特化したものとなりますが、その授業の基本となる重要な視点として、数学及び理科の各科目(物理・化学・生物)それぞれにつながりがあることや、それぞれが有機的にかつ機能的に組み合わさることによって生徒の知識が深まったり、新たな発想が生れたりするような工夫や仕組みを施していきます。

ア)医療問題(再生医療社会における問題点の検討)
 京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞やiPS細胞を用いた治療の研究などにより、再生医療の最先端技術は国民にもその存在を知られるようになりました。しかし、我々一般市民にとっては、期待とともに不安を感じるところにあります。そこで、将来医師を目指している医科コース生徒を対象にして、再生医療について概要を学び、未来の再生医療の問題点について議論できる生徒の育成を目指します。

 医療問題に関しては、茨城大学教育学部養護教諭養成課程基礎医学研究室の石原研治教授から指導を仰ぎます。その授業の後には、先生から課題が与えられて、それぞれの生徒が課題に取り組みレポート作成を行ないます。発表の準備の際において、時には縦断的に学年を越えて生徒間での指導を行わせることもあります。経験豊かな高3生から指導を受けることで互いに刺激し合い、切磋琢磨できる教育環境も整えていきます。

イ)科学実験
 科学の甲子園で取り扱われるような先駆的な実験を取り入れて、一見すると正解のないような課題に対して、創意工夫や思考錯誤を何度も何度も繰り返すことで規則性や法則性を導き出し、科学的に対応していく姿勢を育みます。
 また、お茶の水女子大学湾岸生物教育センターの清本正人准教授と海洋実験及びウニの発生に関する実験、観察の計画をしています。その実験内容は、海藻や動物の磯採集と観察、プランクトンの採取と観察、ウニの発生の観察や海の近くに生きる動植物の観察と標本作製を予定しています。これらは長期の夏期休暇中や冬期休暇中などを利用してサンプルを採取し、本校に持ち帰り継続的な観察や標本作成を行った上での同定作業など行う予定です。また、ウニの発生に関しては学年に応じたテーマを設け継続的な観察や実験を行っていきます。生命現象を様々な視点で実験、観察することで、医師としての生命の本質を探るための好奇心を養う事を目的とした体験活動を実践できるように計画しています。

ウ)医療統計
 科学実験から得られた生のデータを処理して、医師として正しく数値を読み解く能力を育成します。平均値だけでなく標準偏差や標準誤差など統計的な定義や意味を考察し、どのように表現していくのかを学んでいきます。

エ)科学英語
 実験や観察を発表する際に、英語によるプレゼンも視野に入れた指導を行うことで、英語での発展的な科学学習や、体験により国際性を兼ね備えた人材として科学英語の実践力を高めていきます。

医療問題 (再生医療社会における問題点の検討)

はじめに

 2007 年,京都大学 iPS 細胞研究所 (CiRA) の山中伸弥教授がヒト iPS 細胞を樹立しました。その報告を受けて,文部科学省や厚生労働省などの省庁,京都大学,慶応大学,東京大学,理化学研究所などの研究機関をはじめとする国の諸機関は再生医療の実現に向けて大きく動き出しました。2014 年 9 月には,世界ではじめての iPS 細胞を用いた臨床試験が理化学研究所で行われました。このように,国の諸機関が国民の QOL 向上を目指して,これまで治療不可能であった疾患に対して iPS 細胞による再生医療という新しい切り口によって目覚ましい成果をあげ,再生医療が国民の医療の選択肢の一つになることも現実味を帯びてきました。
 私たちの生活する「社会」は様々な立場や考えが有機的に繋がり,国民一人ひとりがその社会を支え成り立っています。しかしながら,iPS 細胞が樹立され再生医療という新しい医療技術が生まれつつある現段階では,それを受け入れるための社会はまだ確立されていません。医療は私たち社会で生活する一人ひとりのものです。再生医療を一つの医療として受け入れるための社会とはどうあるべきなのか,私たちは「再生医療」を「最先端技術」「医学」という側面だけで捉えるのではなく,社会を担う者として幅広い視野に立って「再生医療」を眺め,社会的な面で国民の QOL 向上を目指すべきです。
 そこで,本講義「メディカルサイエンス」では,再生医療の現状を医学・科学・倫理的な面から理解した上で,新しい再生医療を社会的な面からも創造し,国民一人ひとりのための再生医療社会を創出できる力を養うことを目標とします。

到達目標

 メディカルサイエンスの到達目標は以下の通りである。

【1】  iPS 細胞の発見の経緯など科学的背景,国や大学等が進める再生医療社会実現に向けた現状を理解できる。
【2】  再生医療等の最先端研究を進める上での倫理的課題を理解し,幅広い意見を聞きながら自分の考えが持てる。
【3】  相手の立場を理解しながら話し伝えることができるようになる。
【4】  大学進学,そして社会人という人生を歩む過程の中で,日々進歩する科学技術を理解し,社会に果たす自分の役割を認識できるようになる。

茨城大学教育学部教授 石原 研治 先生 のシラバスより引用しました。

第3回目 4月21日(金曜日)

         
 茨城大学教育学部教授 石原研治 先生よりメディカルサイエンスで「再生医療」に関する講義を行う意義や、これからのスケジュールに関しての話がありました。    再生医療に関する定義や歴史など話がありました。新しい技術が社会に誤解を生じたり、色々な問題点があることを学びました。    生徒は真剣に先生の話を聞きつつも、メモをメディカルサイエンスノートに書き残しました。これから医師を志す者として重要な資質となると思います。


生徒の感想

 再生医療に関しては、去年一通り学習したので、今回の講話の多くは去年の復習でした。一度自分たちで詳しく調べたところはより理解が深まり、去年の学習ではよくわからなかった所が今回の講話で理解できるようになったので学習への意識が高まりました。次の課題は「iPS細胞や再生医療に関わるニュース解説」ということで、論文など、少し手を伸ばしにくいものにも積極的に手を伸ばしてみたいと思いました。再生医療では科学的な技術の面での障壁だけでなく、倫理的な問題も出てくるので、研究するのがなかなか難しいのかもしれませんが、将来必ず人の役に立つ分野でもあるし、研究する価値のある分野だと思います。

 今回の講話ではiPS細胞の研究がなされるまでの流れについて学びましたが、以前自分で調べた事よりもより多く学ぶことができました。研究においてもっとも大事なことは「好奇心や探求心」であることだと分かり、自分ももっと色々な事に興味を持っていくことが大切なんだと思いました。英語や数学そして化学など今行っている受験勉強においても同じ事が言えるので、日々自ら調べるということを習慣にして、たくさんの事を知っているような人になりたいと思います。

 私は再生医療という言葉を聞いても何となく実態のない想像のつかないような気持ちになるだけでした。もちろん実際に見たことはないし、医科コース長講話などの機会がなければ、もしかしたら一生その詳細について知ることはなかったかもしれません。今回再生医療について学習し直すことで私が将来なりたい職業に大きく関わりのあることだと分かり、より興味を持つことができました。いかにして一般の人がより気軽に関われるようなるかは私たちの世代が努力していかなくてはなりません。自分から積極的に情報を収集しようと思います。

 今回の講話で、再生医療とはいかなるものであるかという定義を見直し、さらに歴史や最近のニュースを見て知識を深めることができました。1つの治療法についても、たくさんの人が関わって色々な方向から改良を重ねていった歴史があることを知り、長期研究と改良を重ねていくことが理想の医療を実現すると感じました。また,自分で医療についての新しい情報を集めて複数の情報から状況を読みとることが必要だと思いました。今後の医療では、より生命倫理が問われるような問題が増えていくと思います。今回のお話にあったES細胞とiPS細胞のように、1つずつ問題を解決していき、よく考えて研究していくことが重要になっていくと思います。

 ●  これまでiPS細胞やES細胞・幹細胞という言葉は聞いたことはありましたが、その意味までは気にしていませんでした。これから医師を目指す人間にとっては、再生医療は重要な事柄だと思うので、この機会に学んだことや調べたことを忘れずにいたいと思います。また、市販の傷の再生を早めるといった、薬は再生医療には該当しないと初めて知りました。今後、このような知識を積み重ねて、自分の言葉でも説明できるよう理解していきたいと思います。

 ●  今回の講話をお聴きし、再生医療についてより理解することができ、その技術の凄さを改めて実感しました。昨年の医科講話の授業では、再生医療についての知識がなく、ただiPS細胞を理解するのに精一杯でしたが、今回はiPS細胞の発見の経緯やその機能についてなど、様々なことを理解できたと思います。しかし、昨年学んだにもかかわらず、再生医療についての基本的なことを理解できていなかったことが分かり、勉強不足を痛感しました。今回の講話で学んだことや課題をきちんと取り組み、再生医療についてより理解を深めていきたいと思います。

 ●  去年、再生医療について何回か講話をうけましたが、今回はそれをさらに深めることができたと思います。まず、私は再生医療に幹細胞を用いる理由を理解できていませんでした。今回はそれを知ることができました。また、ES細胞は不妊治療等の余剰胚を用いないと、生命倫理の問題になるということも初めて知りました。物理選択ではありますが、興味をもち、そういった問題の知識をつけたいと思います。その際は様々な視点からの意見や現状などを自分でしっかりと理解をするようにしたいです。

 ●  今回の石原先生のお話は、高校1年生の時に似たようなお話を聞き、実際に調べたりしていたのでわかりやすかったです。再生医療のしくみが体細胞から成体幹細胞、受精卵までさかのぼっていったという説明がとても分かりやすくて、さらに再生医療に興味を持ちました。また、ノーベル賞受賞というのは、一般市民はニュースなどでやっとわかるもので、実際にはかなり前の段階で発表されています。今まではそこまで意識はしていなかったのですが、今回のお話の中で報道の流れを知り、きちんと順序立って行われるということが分かりました。昨年は、加齢黄斑変性についてももっと詳しく調べようと思いました。


参考動画

創造性の育成塾 第11回夏合宿  (2016年8月2日)

高橋 政代

理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー

「iPS細胞を治療に使うための研究」
http://juku.netj.or.jp/summer2016/report/0802_03.html

医学だけでなく「科学」の考え方など、非常に参考になる講演です。
そして、良き医師を目指すためのキーワードも多くあります。

(1時間33分の動画です)


本校は「平成29年度私学版未来の科学者育成プロジェクト推進事業」に茨城県より採択されました。
本校の具体的な実践項目は、次の4点を柱としています。

 @ 学校設定科目「メディカルサイエンス」の新設
 A 理数融合講座・実験講座
 B 江戸川学園取手小学校のアフタースクールへの指導
 C 医科講話・医療教養講座・一日医師体験による医師としての自覚作り

今回は、上記の @ に関しての項目となります。