高校1年医科コース  ウニ飼育実験 No.6

 平成29年2月27日・3月1日・3日 昼休み・放課後
 
【実験の内容】

1.自分に割り当てられているチューブ内の胚の成長記録を取る
  八腕幼生のウニ原基の状態を確認し、必要であれば変態誘導用の餌を与える
2.給餌(まだ変態誘導出来ていない場合は、月・水・金)、水の取り換え(金)の実施


1.自分に割り当てられているチューブ内の胚の成長記録を取る
  八腕幼生のウニ原基の状態を確認し、必要であれば変態誘導用の餌を与える

 ほぼ生徒全員のウニ原基が胃と同じ大きさになっている、又は八腕幼生の頭部と胴部の部分を一周する形での繊毛が生じ、激しく動くことにより動きが活発に出来るようになっていることを確認して、変態誘導用の餌(プラスチック板に付着している藻類)を入れられる状態になりました。
先週の金曜日(2/24)に変態誘導用の餌を入れた生徒については、月曜日の観察の時点で既に変態完了を確認できる胚がいることを発見し、確認してほしいと教員に声をかけてくる場面が多々ありました。
下記は、八腕幼生の繊毛が激しく動いている様子の動画です。

※再生出来ない場合は《こちら》を試してみて下さい。

2.給餌(月・水・金)、水の取り換え(金)の実施

 実験が順調に進む中で、珪藻を必要とする生徒もほとんどいなくなり(少数ではあっても、まだ変態に至らないからときちんと珪藻を与えて飼育を続けている生徒もおります)、付着藻類を必要とする生徒が多数となりました。
付着藻類のプラスチック板を予め水道水で洗わなかった為、こちらが想定していなかったような色々な生き物が潜んでいたようで、生徒のチューブの中で、「エビのようなものが見られる」「ミジンコのようなものがいる」などの声がありました。
場合によっては、稚ウニの減少の原因にも考えられるため、よく観察するよう話をしています。
他の生き物に稚ウニを食われてしまった可能性がある生徒には、水洗いしてからのプラスチック板の付着藻類を見てもらっても、やはり貝がいるとのことで水洗いによってもなかなか取り除けないことも確認できました。
次年度は、付着藻類はきちんと顕微鏡観察して他の生き物を取り除いてから与えるという点を気を付けていきたいと考えています。


生徒52名の発生進捗(3/3現在)
 胚の名称 〜2/17 2/20 2/22 2/24 2/27 3/1 3/3 合計 
 6腕幼生  48人(92.3%)  0人(0%)   0人(38.5%)   1人(1.9%)   1人(1.9%)   0人(0%)   0人(0%) 50人(96.1%) 
 8腕幼生  40人(76.9%)   0人(0%)   2人(3.8%)  2人(3.8%)   0人(0%)   0人(0%)    0人(0%)  42人(80.8%)
 ウニ原基
の存在有
  22人(42.3%)   3人(5.8%)   7人(13.5%) 15人(28.8%)   0人(0%)   1人(1.9%)    0人(0%)  48人(92.3%)
 8腕幼生
後期
  2人(3.8%)   0人(0%)   0人(0%) 26人(50.0%)   3人(5.8%)   6人(11.5%)    0人(0%)  37人(71.2%)
 ウニ原基   0人(0%)   0人(0%)   0人(0%)  0人(0%)   9人(17.3%)   17人(32.7%)    3人(5.8%)   29人(55.8%)

実験結果からの疑問など

 今回は、お茶の水女子大学の清本先生からの館山の天然海水と市販の人工海水の2種類を使って実験を進めてきましたが、6腕幼生から8腕幼生位の成長過程で、人工海水で飼育している幼生だけ大量死を出してしまいました。
これは、1学年で実施してきた4つのビーカーのうち室温で飼育していたものだけでなく、2月6日から2学年(10数名)が人工海水だけで飼育してきたものでも同様の現象が発生しました。
 今回の現象は、「人工海水が悪い」と決めつけるには情報が乏しいため、使用している人工海水に含まれているイオンなどについても化学科の先生にもご協力を頂き調べる余地が残った内容でした。水道水のカルキ抜きはしているもののそれ以外に多く含まれている金属イオンに原因があるのかもしれません。発生に関係すると思われるイオンについては、現在発表されている論文などを参考にして絞っていき原因究明を進めていきたいと考えています。
人工海水が全てダメではなく、きちんと成長できているものもあるため、どのような条件が重なると失敗する可能性が高くなるのかも課題です。
 生徒からも、「八腕幼生にウニ原基が全く出来る気配のないものがある。形状が他のものと違う気がする」、「どんどん腕が短くなって丸くなってしまっている。きちんと変態できるだろうか?」など、日々の観察の中で他の人の幼生と比較をし自分の幼生が順調であるのか、又は何か課題を抱えているのかなどを、冷静な目で捉え、どうして違うのだろうか?と考えるものが出てきました。
また、家庭で家族と現在どの状態にあるのかを会話しながら進めているという生徒もいます。
 今後、ここまで進めてきた稚ウニの飼育を出来るのならば自身の手で育てたいのでどうしたら良いか?という質問も出始めました。
ここまで飼育してきたものは、出来る限りは生徒の意思を尊重して飼育できるようサポートをしてあげたいと考えています。

 今回の実験では、生物の単元の中でも変化を把握しづらいため、多くの生徒が苦手とする発生についてを実体験することにより、理解を深めることを目的に行ってきました。
卵と精子の受精による変化、そこから卵割後にプルテウス幼生から八腕幼生までの変化、最後に稚ウニとしての大きな変態まで、写真だけではなかなか理解しづらい内容が盛りだくさんあります。ここまで自分たちが観察し、関わってきたことをデータとして整理し、受精から稚ウニへの変態までの観察とレポート作成を作成することによって知識の整理も出来てくるはずです。
これから参加した生徒は自分の体験してきたことをきちんと言葉で表現することの難しさを体験します。
また、生命の尊さ、力強さを肌身に感じたことによって、医学を学ぶ上でプラスαになるものもあったはずです。
彼らにとっての今回の実験が、感受性と生き物に対する責任感を育てる上で良い経験になったことは間違いないでしょう。

観察での様子と胚の変化

       
 生徒の稚ウニから。綺麗に変態を終了し管足もとげもはっきりと観察出来ている。    1枚目と同じ稚ウニが管足を使いながら動いていく様子。    付着藻類上で観察された稚ウニ。五放射相称がうっすらと体の表面上に観察できる。
       
 放課後の観察時に稚ウニの様子を写真に撮り二人で確認をしている様子から。
この1か月の間の観察によりカメラ技術にも磨きがかかり、とても良い写真を撮るようになりました。
   昼休みの観察風景から。
チューブから取り出す作業にも、稚ウニをスライドガラスに乗せる作業にも、一生懸命な様子が伺えます。
   昼休み、少しの時間も惜しんで観察してはスケッチをしっかりととっていました。

次回は、巻貝(ヤドカリの小さいもの)に襲われてしまった稚ウニの写真と、その巻貝の写真、3Lビーカー内で大量に変態し密集している稚ウニの写真などを紹介する予定です。