アフタースクール 大学の有機化学実験

 1.  目 的  専門性が高い大学の教授から直接指導を仰ぐことで、幅広い教養と豊かな人間性、自ら考え解決するために必要な基本的知識や、建設的に行動できる態度と習慣を身に付ける。
 
 2.  実施日
(時間)
 2020年10月28日(木) 第3回目(全8回の実験を予定しています)
  前半 16時15分 〜 17時50分 (95分)
  後半 17時55分 〜 19時30分 (95分)

 3.  講 師  千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 教授 このアフタースクールの大学側の統括責任者
 千葉科学大学 薬学部 薬学科 野口 拓也 准教授(今井グループ)
 江戸川学園取手中・高等学校 医科コース長 兼 龍盛 このアフタースクールの高校側の企画・運営

 4.  会 場  江戸川学園取手中・高等学校 自然科学棟 化学室β

 5.  参加者  高等部2年生対象
  前半 受講者26名  参加者25名(欠席者:1名)
  後半 受講者29名  参加者27名(欠席者:2名)

 6.  実験内容  鎮痛剤 と 湿布薬 ( アセチルサリチル酸 と サリチル酸メチル )

☆ 本来は、千葉科学大学の学長と本校の学校長および関係者が集まって調印式典を行う予定でした。今年度は、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、残念ながら式典は行いませんでした。
☆ しかしながら、書面にて令和3年9月22日に千葉科学大学と江戸川学園取手中・高等学校は、教育提携に関する協定書に調印しました。

実験の予定 有機化学実験を体験@〜G(生徒の実験操作の技術や理解度を見極めて、実験内容を適宜変更していく予定です)

 回数  日付  担当講師  実験の題目(予定)  実験の内容(予定)  備考
 1
 10月14日

 今井 信行
 川島 裕也
 ルミノール反応  ルミノールを合成し、ルミノール反応で同定  極めて少量(mg単位)の試薬を用いる実験

 10月21日

野口 拓也  エステル化と加水分解  エステルの合成およびせっけんの合成  センター試験20,18,13年に類題が出題
 
 10月28日

 野口 拓也  鎮痛剤と湿布薬  加水分解とエステル化の応用  センター試験18,14年に類題が出題
 4
 11月04日

 野口 拓也  電子レンジ@  実際の有機化学反応を体験@
アセトアミノフェンの合成とTLC
 センター試験19,15年に類題が出題
 5
 11月25日

 野口 拓也  電子レンジA  実際の有機化学反応を体験A
アセトアミノフェンの合成と分液による分離
 センター試験19,15年に類題が出題
 6
 12月02日

 川島 裕也  電子レンジB  実際の有機化学反応を体験B
アセトアミノフェンの合成と濃縮および単離精製
 センター試験19,15年に類題が出題
 7
 01月13日

 川島 裕也  電子レンジC  実際の有機化学反応を体験C
アセトアミノフェンの合成と濃縮および単離精製
 センター試験19,15年に類題が出題
 8
 01月27日

 今井 信行
 川島 裕也
 メチルオレンジの合成  アニリンからジアゾニウム塩の調整とジアゾ化  センター試験19,15年に類題が出題

1回目の実習は、有機化学実験に向けて、生徒の心をキャッチするルミノール反応、2〜3回目はカルボン酸・エステル関連、4〜7回目は含窒素化合物関連を配置しました。薄層クロマトは4回目に原理を説明します。そして6回目まで反応を追跡、生成物の同定の用途で使用します。今回用意したテーマのほとんどはセンター試験にも出題されており、実験を行い、関連するセンター試験の問題を解説することも可能です。


研修風景

         
 今日の実験のテーマと、実験のポイントとなる反応について、時間は短いですが、的確な講義をして頂きました。本校のカリキュラム上、この講義を受けている高等部2年生は有機化学を通常の授業では習っていません。それを事前打ち合わせで野口先生は知っているので、生徒たちに分かりやすく、しかしながら有機化学の基本は押さえた説明をして頂きました。あまり簡単にし過ぎた例えをすると、本質を見失ってしまうのですが、そこはやはり大学の先生ということもあり、伝える内容はしっかりと教えて下さいました。    フェノール類に特徴的な、塩化鉄(V)を加えた時の色の様子です。ベンゼン環に直接ヒドロキシ基(OH)がある時に、鋭敏に調べることができる呈色反応です。紫色になった班からは、大きな歓声が上がりました。正体が分からなかった白い粉が「サリチル酸」であったことが理解できました。一方、残念ながら、黄褐色のままで変化しなかった班は、塩化鉄(V)水溶液を多く加えても変化しないことを確かめていました。そして、教室全体でその変化の様子を確かめてから、今日の本番の実験が始まりました。    初めに野口先生の可愛い娘さんが、大学の研究室で同様の実験を行っている様子をビデオで紹介して下さいました。これにより実験の雰囲気を理解することができました。そして、実験に関する諸注意を受けた後は、野口先生が本校のアフタースクール用に作成してくださった実験テキストを読みながら実験を進めて行きました。この実験テキストは前回の2回目と3回目がセットになっており、今回は事前に予習ができるようになっていました。しかしながら、わかりにくい場合や、実験操作で不明な点があると野口先生がすぐに対応して下さいました。
         
         
 しばらく加熱をするとサリチル酸メチルの特徴的な湿布薬の香りがしました。今回は、香りを確かめることで、サリチル酸メチルができたことを確認しました。中にはなかなか香りが分からない人がいましたが、野口先生の適切なアドバイス通りにすることで、強い香りがするようになり、多くの生徒が実験が上手くいっていたことに気付き喜んでいました。その様子を見ていた野口先生も共感しながら、楽しそうに実験は進んでいきました。    ここから野口先生が行う実験講義の真骨頂が始まりました。実験をしていた際に疑問に思っていたことを生徒たちに確かめていきます。そして、生徒たちにどのような実験をすることで、その疑問が解決できるのか軽くディスカッションしていきます。実験班の数は、前半の授業では7班、後半の授業では8班ですが、生徒たちの実験の様子を見ながら、その進行に合わせてすべての班に様々なアドバイスをして下さいました。    今回は、アセチルサリチル酸を加水分解し、サリチル酸を得ました。そして、得られたサリチル酸を用いてエステル化をし、サリチル酸メチルを作りました。では、出来上がったサリチル酸メチルからアセチルサリチル酸を作るにはどうしたらよいのか? サリチル酸とサリチル酸メチルの識別の仕方は? 班に応じて様々なテーマを与えて下さいました。実験後も意欲のある生徒には時間を作って頂き、ディスカッションを通して理解を深めて下さいました。


今回の反応に関して

【予備実験】 〜 今日も再び・・・ 白い粉の正体を探れ 〜
今回も、野口先生は実験の始まる前に、今日の実験のポイントを黒板に書かれていました。

 フェノール    ベンゼンに直接OHが結合している化合物。アルコールの一員だけどアルコールとは異なる性質を持つ。例えば、NaOHと反応し、塩を作ったり塩化鉄(V)と反応して紫色に呈色する。


そして、野口先生は、次のことだけを生徒に情報として与えて下さいました。

 野口先生  :  「前回は、有機物は水に溶けにくく、その塩は水に溶けやすくなる。それで物質を区別することもできることを学びましたね。今回は違う方法で有機物を区別する方法を学びましょう。」

そして、今日も前回と同様に1本の試験管に白い粉が入ってることを気づかせた。しかも、今回は班よって違った白い粉になっているそうです。

 野口先生  : 「さて、今から机の上にある試薬を用いて、その白い粉が『アセチルサリチル酸』なのか、それとも『サリチル酸』なのか当てなさい。さぁ〜、手を動かしなさい。」


そして、生徒たちは、少し困惑しながら議論をし始めました。

〔準備して頂いた試薬〕
  @ エタノール
  A メタノール
  B 水道水
  C 6M 水酸化ナトリウム水溶液
  D 3M 塩酸
  E 飽和食塩水
  F 塩化鉄(V)水溶液

今回の正解は、Fの塩化鉄(V)水溶液でした。

 野口先生  : 「今回は前回と違って、班によって異なる物質、すなわち『アセチルサリチル酸』と『サリチル酸」を入れています。だから、それぞれの班によって違った結果になると思います。そして、ランダムに置いてしまったので、どの班にどちらの試薬を置いたのか忘れてしまいました。白い粉を溶かすために、少量のメタノールを滴下してください。そこで溶けたことを確認してから塩化鉄(V)を1〜2滴だけ加えて下さい。きっと明確に違いが現れるはずですよ。」


班によっては黄褐色のまま変化しなかった班と、紫色に呈色した班があり、お互いに色を確認することから始まりました。

 野口先生  : 「今日の実験で重要なポイントを理解できましたか? では、いよいよ実験を行っていきましょう。」



【3-0】全体の流れ

 

【3ー1】アセチルサリチル酸からサリチル酸の合成

 

【3ー2】サリチル酸からサリチル酸メチルの合成

 

 今回のアフタースクールの講座名は、「大学の有機化学実験」となっております。しかしながら、できるだけ特殊な器具を用いないように、今までの経験に基づいて今井先生が研究して下さった実験法で、より教育効果が高い実験となっております。今井先生の目標としては、「どの高校でもできる有機化学実験」を目指して実験開発を行って頂いております。従って、大学で行うような長時間の実験や特殊な実験器具は、今井先生のアイデアと技術によって改善されております。
 今回のアフタースクールでは、実際に実験技術が未熟な普通の高校生を対象に実施しています。
 そして、誰でも有機化学実験を楽しめる実験となっております。

 尚、本実験に関する詳細(使用した試薬や実験操作など)に関しては、このアフタースクールの大学側の統括責任者である 千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 教授 にお尋ね下さい。


感想

  今日の実験は試薬を使うと色が変わるので、とても楽しく実験ができました。前回と同じような原理を使って実験したので前回よりも物事を理解しながら行うことができました。今回得た知識を自分の中で整理して、今後の実験に活かしていきたいと思いました。

【1組 女子 O.R.さん】

 ●   サリチル酸メチルからサリチル酸を作りたいと思い、サリチル酸メチルにNaOHを入れ、それをろ過したものの結晶に、エタノールと塩化鉄(V)水溶液を入れると紫色になった。その操作によってサリチル酸に変化したと言いたいところであったが、サリチル酸メチルにもフェノール性水酸基があるのに気付き、同じように呈色が起こることを野口先生から指摘を受けた。そこからどうやってはっきりと違いを見いだすか考えることがとても楽しかった。とても考えたので一生忘れないと思う。
 
 【1組 女子 M.K.さん】

 ●   サリチル酸メチルを元に戻すことができなかった。NaOHを入れて中和するのかと思っていたが違った。実験内容は結構難しく、ちょっとわからなかったところもあった。
   【2組 男子 K.Y.くん】

 ●  まず、薬から違う薬を作れることにとても驚きました。鎮痛剤も湿布薬も痛みを和らげる効果があるので、サリチル酸の骨格構造に秘密があるのかと思いました。残りの30分で、サリチル酸メチルからサリチル酸、そして、アセチルサリチル酸まで戻すことができてとてもよかったです。
   【3組 男子 T.K.くん】

 ●  少し実験操作に手こずってしまって時間がかかってしまった。鎮痛剤から湿布薬を作ることができて面白かった。
   【5組 女子 M.S.さん】

 ●  とても楽しかった。「普段使っている薬から、また別の薬を作る。」というのが、いつもの実験よりも身近で分かりやすかった。特に、後半の30分間、自分たちで色々と考えて実験操作をしていくことが面白く、すべての反応で逆反応を成功させることができました。前回は失敗が多かったのですが、今回は大成功です!! 次回も楽しみです!!
  【2組 女子 A.R.さん】

 ●  少し難しい内容でしたが、受けごたえのある授業でした。最後の自由実験は成功はしたものの、思考力を要したので、とても有意義な時間になったと思います。有り難うございました。
   【2組 男子 A.Y.くん】

事後アンケート


【項目】 @すごく長い Aやや長い Bちょうどよい Cやや短い Dすごく短い

T.実験の時間について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者25名)も、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)も項目Bの「ちょうどよい」をもっとも多く選択したことが分かりました。今回の実験は、解熱・鎮痛剤の錠剤に含まれる アセチルサリチル酸 を加水分解し、サリチル酸 を得ました。その後、得られた サリチル酸 を エステル化 することで、サリチル酸メチル を作りました。この実験としては、野口先生の説明を含めて約60分で余裕を持って終了しました。その後、各班が疑問に思ったことをテーマに実験をすることで確かめていきました。事前の試薬の準備など研究されており、また、使用する試薬もできるだけ少なくなるような工夫がなされていました。参加した生徒たちにとって充実した時間を過ごすことができたと思います。


【項目】 @すごく難しい Aやや難しい Bちょうどよい Cやや易しい Dすごく易しい

U.実験の内容について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者25名)に関しては、項目A「やや難しい」を選択した生徒数が9名(36%)と、項目B「ちょうどよい」を選択した生徒数が10名(40%)となり、やや難しい印象を持った生徒がいたのだと思います。しかしながら、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)に関しては、項目B「ちょうどよい」を選択した生徒数が21名(78%)となり、生徒の印象が改善したと思います。なお、この傾向は、前回の第2回の「エステル化と加水分解」の時と同じ傾向が見られました。前回の実験の結果を踏まえて、「エステル化」と「加水分解」を違う物質に対して行っているだけです。有機化学をまだ履修していない生徒にとっては、一見すると複雑な化学式(いわゆる、ベンゼン環の亀の甲羅)を見るだけで、反応の本質を見失ってしまうこともあります。しかしながら、野口先生の導入実験や実験操作を行う前の解説が非常に分かりやすく、受講した生徒にとっては分かりやすい実験内容になっていたと思います。


【項目】 @すごく難しい Aやや難しい Bちょうどよい Cやや易しい Dすごく易しい

V.実験の操作について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者25名)に関しては、項目B「ちょうどよい」を選択した生徒数が16名(64%)となり、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)に関しては、項目B「ちょうどよい」を選択した生徒数が23名(85%)となったことが分かりました。使用する試薬に関しては分かりやすく、色付きのシールで区別し、使用するポリピペットにも同じ色のシールで容易に区別できるように生徒たちを使って準備をしていました。その準備を一度体験させることで生徒たちは、コンタミネーションの意識付けができていたと思います。また、今回も複雑な実験操作はないものの「綿栓ろ過」のような今井先生から教えて頂いた、微量の試薬でも「ろ過」できる方法を習得することで、今までできなかった操作が少しずつできる感覚を体験しているのだと思います。無機化学とは異なり、有機化合物の沈殿物の多くは白く、その変化も激しくありません。想像しながら化合物にどのような変化が起きているのか、実験を進めて行かなければなりません。できるだけ複雑な実験操作を省略することで、目の前で何が起きているのか想像し、時には、班内での仲間と議論を深めるような指導をして頂いております。そのことによる結果が現れているのだと思います。