海辺の生物体験 減数分裂の観察

 目 的  :  21世紀における科学技術人材育成の中で、我々人類も含め、生命の本質を理解するためには、様々な生き物の生態について正しく理解することが大切です。今回、海辺の実際の生命現象を様々な視点から実験・観察することを通して、生命の本質についての探究心を養うことを目的に「海辺の生物体験」を実施することになりました。今回のプログラムは、お茶の水女子大学と提携したもので、主にヒトデを用いた減数分裂の観察を行いました。

 場 所  :  お茶の水女子大学 湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)
〒294-0301
千葉県館山市香11

 日 程  :  2019年9月21日(土曜日) ~ 22日(日曜日)

 参加生徒  :  8名

 引率教諭  :  医科コース長 兼 龍盛
1学年副担任 名村 渉
 指導講師  :  お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 准教授 清本 正人

9月21日 (土曜日)

 11:30    JR館山駅(東口)集合
 12:00    昼食
12:30    開講式 及び 実験ガイダンス
 13:00    ヒトデを用いた減数分裂の観察 ①
 18:00    夕食
 19:00    講義 細胞の分裂 (基幹研究院 自然科学系 准教授 清本 正人 先生)
 ウミホタルの採取 ← 先生のご厚意によって予定の講義内容を変更致しました
 22:00    入浴・就寝

9月22日 (日曜日)

8:00    朝食
9:00    ヒトデを用いた減数分裂の観察 ② 
11:30    閉講式
12:00    昼食
12:30    現地解散

10月13日 (土曜日)

         
 高等部2年生ということもあり、今回の海辺の生物体験は、JR館山駅まで自分たちで集合しました。そこから教育センターまでのバスの乗車券を購入し、出発しました。    お茶の水女子大湾岸生物教育センター(館山臨海実験所)のセンター長である 清本 正人 先生から説明や諸注意を頂きました。    今回の実験に使用した生物は、イトマキヒトデ【Patiria pectinifera】でした。通常は5本の腕を持ちますが、個体差も大きくあり左下の個体のように6本の場合もあるそうです。
         
         
 雌のイトマキヒトデから採取した卵巣の様子です。ひとつひとつの房の中にたくさんの未成熟な未受精卵が詰まっているそうです。    雄のイトマキヒトデから採取した精巣の様子です。精子は海水中では弱ってしまうので、使用するまでチューブに入れ低温で管理しました。    海辺の生物体験は、希望者を募って実施しています。そのため今回の参加者は物理選択者も多かったです。顕微鏡の操作が久しぶりの生徒もいるため、清本先生にお願いをして、顕微鏡の使い方を練習することから始めました。
         
         
 未成熟な未受精卵の入った卵巣に、卵成熟誘起ホルモンである 1-メチルアデニン を加えたところ、放卵が始まりました。    1-メチルアデニン が作用して約30分後、核膜が消失し成熟卵になりました。この現象は顕微鏡の観察で明らかなので、卵の成熟の指標としました。    成熟した未受精卵に、雄から採取した精子を海水で薄めた状態で加えて受精をさせました。このような操作法は清本先生から指導があり、できるだけ生徒で行いました。
         
         
 精子を加えてから約10分後の様子です。受精が起こった卵から受精膜が上がってきた様子です。実際に目の前で膜ができる様子に感動しました。このような小さな世界でも、生命の不思議な現象があり、その神秘さに気づく事ができました。    観察の途中で清本先生から所有する、精子が卵の中に侵入し、受精が進む様子の早送り映像を見せて頂きました。このようなことは、専門家から直接指導を仰ぐことができる今回のような企画があるので、非常に貴重な映像を見せて頂きました。    受精後約60分経過した受精卵の様子です。減数分裂により第一極体(下赤矢印)が生じました。分裂が早いものでは第二極体(上赤矢印)まで見る事ができました。
         
         
 清本先生がヒトデの解剖を見せてくれました。水平に解剖することで五放射骨格であることや、卵巣が骨格に沿って並んでいる様子がとてもよく分かりました。    ヒトデの放射神経を取り出している様子です。ピンセットを用いて管足の周辺を探すことで、繊維状の放射神経を取り出しました。一本の骨格から一本ずつ採取しました。    ピンセットの先端にある小さな紐状の白いものが放射神経です。なかなか採取できず大変でしたが、清本先生の丁寧な指導のお陰で、なんとか採取することができました。
         
         
 一人ずつ放射神経を取り出し、チューブの中に神経を集めていきました。非常に細かい作業でしたが、なんとか放射神経を集めていくことができました。    先ほどのチューブに蒸留水を加え、ホモジナイズする(すり潰す)ことで放射神経内の物質の抽出を行いました。    放射神経から抽出した液を清本先生の指示通りマイクロピペットとマイクロプレートを用いて希釈していきました。希釈は×10,×30,×90,×270,×810,×2430の6種類の観察を行いました。(A行とC行)
         
         
 B行とD行には指示通りに 1-メチルアデニン の10-6を入れ希釈していきました。希釈なし,×3,×9,×27,×81,×243の6種類で観察しました。A行とB行は卵巣を入れ、C行とD行には卵母細胞を入れて違いを比べました。    夕食の準備の様子です。この日はハンバーグ弁当でした。配膳や汁物、飲み物の用意は生徒みんなで協力して行いました。約5時間の実験後でしたが疲れも見せず食事を楽しんでいました。    夕食前と食後で卵巣や卵母細胞の変化の様子を観察しました。結果は先生の指示通りに表にまとめました。その後、みんなで実験結果の検討を行い、議論を深めました。
         
         
 代表生徒が個人の結果を黒板に記入し、全体での変化の様子を共有しました。生物の実験では、個体差など多くの影響も考えられるので、今回の「海辺の生物体験」に参加したみんなの実験結果を持ち寄って、議論をしました。    結果をまとめた表です。「+」の記号の意味は、効果が顕著にあったもので、「-」の記号の意味は、効果が認められなっかたものです。そして、「±」の記号の意味は、半数程度に効果が認められたものです。このように表を作成してみると、いろいろな傾向が明確になってきました。    A行をそれぞれ顕微鏡で観察しました。放射神経の粗抽出物には卵巣からの排卵を促進するはたらきがあります、A-1から濃度が薄くなるにかけて排卵の量が増えていき、A-4が最大になりました。A-5以降は濃度が薄くなりすぎたためか効果が弱まりました。
         
         
 観察後は清本先生のご厚意により実習内容を変更し、ウミホタルの採集を行いました。ボトルのふたに穴を開け、魚の切り身などを餌にウミホタルを捕まえました。    採集してきたウミホタルに餌の魚の切り身を与えて集まって来たところを顕微鏡で観察しました。心臓が動く様子などもはっきりと観察できました。    研究室で飼育している雌の観察もさせていただきました。右上の緑色の個体は殻の中で卵を育てています。中央の個体は殻の中で孵化した個体がたくさんいることが分かります。


10月14日 (日曜日)

         
 昨日受精させたヒトデの様子です。発生が進み、今朝には囊胚(のうはい)という状態になっていました。この時期になると表面にある繊毛(せんもう)を動かし、動き回ることができていました。    清本先生から昨日行った実験について、各物質の役割と、その作用のしくみを丁寧に解説して頂きました。    本日の実験では昨日と同じ1-メチルアデニンを利用し、海水を CF(Ca2+ーfree:カルシウムイオンを含まない)に変えて同じように実験を行いました。
         
         
 各濃度で変化のあった細胞数を対数グラフでまとめました。普段は利用することの少ない対数グラフの書き方や読み方を指導していただきました。    清本先生が研究室で飼育しているヒトデの胚を見せて頂きました。今回の観察では見ることのできなかったビピンナリア幼生(初期)まで観察しました。幼生がプランクトンを食べる様子が観察できました。    今回の実習では使用することはありませんでしたが、ウニの幼生(稚ウニ)も見せていただきました。小さいながらも棘が生え揃う様子が観察でき感動しました。
         
         
 観察が全て終了しました。清本先生の指示に従い、観察に使用した器具や顕微鏡の片付けを行いました。    顕微鏡はガーゼを使いレンズや調節ねじをきれいに清掃しました。    最後に実験室全体の清掃を行いました。実習を行わせていただいた感謝の気持ちを込めて丁寧に清掃をすることができました。

参加した生徒の感想

 ●  私は今回の海辺の生物体験「ヒトデの減数分裂」に参加して、生命に関する数々の貴重な体験をすることができました。もともと、私は海や海の生物の形や生態は好きでしたが、顕微鏡を使って観察したりホルモンを打ったりなど化学的な分野に関してはあまり興味がありませんでした。今回、ヒトデの卵が卵巣から放出されるメカニズムについての2つの実験を通して、ホルモンや化学物質が生物の生態に深く関わっていると知ることができて純粋に面白いなと思いました。特に、同じホルモンを使っていても濾胞細胞がある場合と無い場合で、発生進み方に差異が出ることについて大変興味深く感じました。今回の体験を通して将来、このような生化学分野の仕事をしてみたいと思いました。
     (高等部2年 U・M)
     
 ●  今回の海辺の生物体験では、ヒトデの生殖の様子などを知ることができました。昨年度の海辺の生物体験では、を用いた海藻の色素同定を行いました。海藻類はあまり詳しくなかったのですが、今回は海洋生物ということでとても楽しみにしていました。ヒトデの生殖についてですが、厳密に観察を行ったことはなく普通科理系コースでは今回のような器具を使って実験することが全くないので非常に新鮮な気持ちでした。また、ウミホタルの採集についても自分が海無し県に住んでいるということもあって磯辺に出かけて採集、などといったことが普段できないこともあり、自分にとって最高の二日間になりました。採集したウミホタルも持ち帰ることができ、現在も自宅で飼育を続けています。中等部3年生が行うウニの発生についての実験もヒトデとは違った幼体の姿が見られるので、機会と参加の空き枠があれば、ぜひまた参加したいと思っています。
     (高等部2年 Y・K)
     
 ●    私は高等部1年の時にも海辺の生物体験に参加していました。今回の実験内容は授業での選択科目とは違うものの、生物の発生に興味があったので再び海辺の生物体験に参加しました。生きたヒトデを使った生体実験なので話についていけるか少し不安な部分もありましたが、清本先生やティーチングアシスタントの大学生の方々に丁寧に教えていただきながら、とても楽しく観察をすることができました。
     (高等部2年 K・H)

参加した教員の感想

 ●  まず初めに、館山での立て続けの台風の被害に遭われた多くの方々に心よりお見舞い申し上げます。研究所に向かう際に電車の中から屋根にブルーシートを張っている家屋や、割れた窓ガラスを見て、改めて台風被害の大きさを体感しました。研究所も停電により飼育していた多くの生物が被害に遭われたそうですが、そのような大変な中でも生徒達を快く迎え入れていただき、予定通りの実習を行わせていただけたことに大変感謝をしております。本当に有り難うございました。私自身は今回で2度目の海辺の生物体験の参加になりました。今回は「ヒトデを使ったの減数分裂の観察」ということで、写真等でしか見ることの無かった減数分裂の過程を、実際に顕微鏡で観察するという貴重な体験をさせていただき感動しました。生徒達も生命の不思議と驚くほど精密にできた生命のしくみを体感することができ大変感動した様子でした。今回の経験をきっかけに、生命への興味や関心、さらに生命を尊ぶ気持ちを持ち続けていって欲しいと心から願っております。
     引率教員 名村 渉