メディカルサイエンス 第7回目 5月31日

メディカルサイエンス(学校設定科目)

 高等部1年生から3年生の医科コースに所属している生徒を対象に、学校設定教科として「理数科」を新設しました。その教科の中に学校設定科目として「メディカルサイエンス」を設置し、医師としての素養を育むことができる教育プログラムを2017年から立ち上げました。この「メディカルサイエンス」の特色は、高等部3学年とも同時間に授業を設定し、縦関係のつながりをより深め、互いに教え、学び合う協働の活動を実践しているところです
 既存の科目の内容を深化しつつも、特に、将来医師を目標とする生徒に向けて、その資質や能力を伸ばしていくためには教科の枠組みを越えた新しい学校設定科目の設立が重要だと考えました。現代に課せられている医療分野の諸問題や、観察・実験を通して科学的思考を更に深めるために、大学などの先生方の協力を仰ぎつつも、本校の教育目標に照らし合せて「メディカルサイエンス」を立ち上げ、様々な見知から研究を行っていくことが目的となります。
 今年度のメディカルサイエンスの授業時間は、金曜日6校時(14:00〜14:45)となりました。

メディカルサイエンスの内容

メディカルサイエンスは以下の4つの項目から成り立ちます。内容は「医科」に特化したものとなりますが、その授業の基本となる重要な視点として、数学及び理科の各科目(物理・化学・生物)それぞれにつながりがあることや、それぞれが有機的にかつ機能的に組み合わさることによって生徒の知識が深まったり、新たな発想が生れたりするような工夫や仕組みを施していきます。

ア)医療問題(再生医療社会における問題点の検討)
 京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞やiPS細胞を用いた治療の研究などにより、再生医療の最先端技術は国民にもその存在を知られるようになりました。しかし、我々一般市民にとっては、期待とともに不安を感じるところにあります。そこで、将来医師を目指している医科コース生徒を対象にして、再生医療について概要を学び、未来の再生医療の問題点について議論できる生徒の育成を目指します。
 医療問題に関しては、茨城大学教育学部養護教諭養成課程基礎医学研究室の石原研治教授から指導を仰ぎます。その授業の後には、先生から課題が与えられて、それぞれの生徒が課題に取り組みレポート作成を行います。発表の準備の際において、時には縦断的に学年を越えて生徒間での指導を行わせることもあります。経験豊かな高3生から指導を受けることで互いに刺激し合い、切磋琢磨できる教育環境も整えていきます。

イ)科学実験
 普段の授業では扱われないような先駆的な実験を取り入れて、一見すると正解のないような課題に対して、創意工夫や試行錯誤を何度も何度も繰り返すことで規則性や法則性を導き出し、科学的に対応していく姿勢を育みます。また、時には大学などの専門の先生方のご支援を受けて実験を行います。

ウ)医療統計
 科学実験から得られた生のデータを処理して、医師として正しく数値を読み解く能力を育成します。平均値だけでなく標準偏差や標準誤差など統計的な定義や意味を考察し、どのように表現していくのかを学んでいきます。

エ)科学英語
 実験や観察を発表する際に、英語によるプレゼンテーションも視野に入れた指導を行うことで、英語での発展的な科学学習や、体験により国際性を兼ね備えた人材として科学英語の実践力を高めていきます。本校のネイティブの先生が英国放送協会(BBC)で放映された医療関係のプログラムを、メディカルサイエンス用に編集してテキストとして用いて活用しています。

美しい化学の世界 〜 色の変わる金属錯体 〜

立教大学 理学部 化学科 教授 和田 亨 先生の協力のもと、実験テーマ『美しい化学 〜 色の変わる金属錯体 〜』を高等部2年生の希望者(32名)に行いました。

【参加生徒】

ク ラ ス 女 子 男 子 合 計
2年1組  6 名 10 名 16 名
2年2組  9 名  7 名 16 名


         
 和田先生による金属錯体の講義がありました。先生のご専門は、人工光合成のための遷移金属錯の触媒開発です。エネルギー問題など多くの問題を解決するために、化学の領域で最先端の研究をしています。    今回の実験は身のまわりにあふれている様々な「色」についての化学でした。自然界では「色」は大切な機能の一つであり、実験体験講習会では、色が変化する金属(コバルト)錯体の実験を行いました。。    塩化コバルトと塩化リチウムを用いて、2種類の実験を紹介して下さいました。実験1では、水分量で色が変化するコバルト錯体の溶液作り。実験2では、温度で色が変化するコバルト錯体の溶液作りでした。

立教大学 理学部 化学科 教授 和田 亨 先生による、実験テーマ『美しい化学 〜 色の変わる金属錯体 〜』の様子

生徒の感想(メディカルサイエンスノートの一部抜粋をしています)

 今回のメディカルサイエンスの実験は大学の先生の出前実験ということで、いつもとは違った雰囲気でした。実験操作の方は簡単だったので、目の前で起きている現象をしっかりと観察し、頭の中で想像しながら進めることができました。今回「色の重要性」を学ぶことができました。普段何気なく触れているので、特に色について何も疑問を抱くことがありませんでした。しかし、自然界での色の機能を知り、その重要性に驚きました。特に外部刺激によって可視領域のスペクトルのピーク位置や強度などの分布が変化する(つまりこれによって色の変化として観察される)のは、分子構造が変化していることを知り、色の奥深さや、学問としての化学の奥深さを垣間見たような気がします。今回の出前授業は、非常に貴重な経験ができる場で楽しかったです。調べてみると今回のサーモクロミズム(thermochromism)だけでなく、エレクトロクロミズム (electrochromism)というものもあるそうです。様々な研究に目を向けることができる機会を得ることができて良かったです。

 私は化学実験こそが、「化学」を一番よく知ることができる・分かるものだと言っても過言ではないのではと思うくらい、化学実験が好きで、この日を楽しみにしていました。特に、錯体といった分野は、ほとんど無知であったので、非常に楽しみでした。実際に実験を行ってみると、実験操作や使う実験器具や使用法は普段の授業で使っているものばかりで、あまり難しくなく慣れ親しむことができました。そこで大切になるのが、この実験では何が変化して何になったのか? 何故、このような現象が起きているのか? と、考えることだと思います。しかし、正直に書くと、私は完全には理解することができませんでした。でも、この行為が大切になってくると私は思っています。何故なら、今は分からないからこそ、「なぜ」を追求することによって、次のステップへ自分を進めることができるからです。また、今回の実験から「簡単なことからでも化学を好きになること」も先生方の背景にあるのだと感じました。こう考えてみると、人間というものはいつでも無知な部分があって、不完全なものであり、当然これは私たちが志している「医師」でも同じであり、勉強することは一生のつきものだと思いました。このメディカルサイエンスの勉強は、未知な分野に対して主体的に分かろうとする努力をすることが重要だと知る機会となっています。化学は、分からないからこそ面白く、今では解決できない可能性もあるから楽しいと思いました。

 今回の実験は、外部の方が来校されて授業を展開していくという形式で、これまで思い出してみても数少ない貴重な体験だったと思います。何よりも魅力的だったのは、一人に1セットの実験道具、オールカラーの印刷プリント、始めて会った大学の教授による講義でした。普段の実験では班に1セットの実験器具しか用意されません。だから、一人一人の実験器具が準備されていることが何よりも嬉しかったです。和田教授の講義は非常に分かりやすく、高校生である僕たちにもきちんと内容が頭に入ってくるような授業でした。その内容としては、錯体とその溶液といったものでした。錯体に関しては、無機化学を学んでいなかったので学校の授業ではまだ取り扱ったことがない分野でしたが、水を加えると錯イオンが形成されて、結果的に化学平衡の状態になるそうです。この実験であった色が変わる塩化コバルトのクロモトロピズムというのは、僕たちが考えている以上に世の中で注目を浴びていて、期待されている分野だそうです。少し調べてみると、色が変化することで視覚による判断が可能になり、判断の区別がとても楽になるそうです。詳しい内容までは、分かりませんでしたが、色が変わることを認識するだけですむというので、非常に便利な識別法のような気がします。これまで時間を要して行ってきた判別の手順を踏むことなく、実験の効率化に役立てることができるのは画期的だと思いました。今後、今回のような企画・実験があれば是非とも参加してみたいです。

 試験管内の溶液をかき混ぜるマグネッチックスターラーに興味があって、必要のない時でも使っていました。試薬を加えていくごとに色が次々に変化していくことに対してとても驚きました。その実験の理由は、和田先生から説明して頂いて理解はできましたが、まだ分からないことばかりなので、化学の奥は深いと感じました。そして何よりも、化学の勉強のモチベーションも上げることができたので、実験などに参加できる機会があれば積極的に参加して知識を増やしていきたいです。

 ●  今回のMS(メディカルサイエンス)の実験では立教大学理学部の和田教授が来校されて実験を行いました。塩化コバルトと塩化リチウムにエタノールを加えたり、さらに蒸溜水を加えていき、その中での水溶液や色の変化を観察する実験でした。入れる溶液の種類や溶液の量によって変化する色が異なったり、熱湯に入れて温度を変化させると色が変わり、その後冷却すると再び色が元に戻ったりしていてとても楽しく実験を行うことができました。また、実験の際に使用した実験器具でマグネッチックスターラーを使用しましたが、今までの実験ではあまり使用したことがなかったので良い経験になったと思います。また、今回の実験において色が変化するということは重要な機能であり、最新の研究ではある波長の色を当てることによって、新たな色が付くような研究も行われているということも知り、もっと詳しく知りたいと思いました。今後自分でも調べてきたいと思いました。
 立教大学 理学部 化学科 フォトクロミック分子の結晶に関する研究

 ●  今回の実験で見られたコバルト・ブルーの色はとても鮮やかで綺麗な色でした。今回の実験で用いた物質は、水を吸うと赤紫色になり、乾かして干すと青色に戻るという性質を持っていることを知ることができました。この性質が乾燥剤にも使われていることを教えて頂きました。私たちは無意識のうちに「もの」を良く色で判別します。昔、テレビ番組でトイレの男女のマークが日本だけが赤と青で明確に区別されていることを知りました。そのテレビ番組では実験として、色で判断してトイレに入っているのか、それとも形を判断してトイレに入るのか行動観察を行ったところ、ほとんどの多くの人が形でなく、色で判別してい結果がありました。また、日本は世界中からカラフルな国だと言われているのを聞いたことがあります。私たちは色によって判断が影響されていることを、この実験において改めて実感することができました。また、結晶の色が太陽光によって変わることを立教大学の最新研究も紹介して頂きました。これが実用化すれば、わざわざ色を染める必要がなくなるのではないかと思いました。

 ●  これまでの実験で様々な呈色反応を観察することがありましたが、今回のコバルト錯体溶液での実験は、その中でも一番鮮やかな色を観察することができました。高1の時に酸化還元滴定の実験で、ビュレットを使って少しずつ溶液を加え、微妙な色の変化を見るという操作と似ていたように感じました。蒸溜水を加えていくと濃い青色から薄い赤紫色に変化する性質を利用して、乾燥剤の中に使われているそうです。自分の家にある汗を吸収するパットも、この性質を利用しているものだと理解できました。何故、もともとは青く、汗を吸うと紫色に変化するのか。そして、干して乾かすと色が戻るのか、この実験でわかり、身近に化学が利用されていることを知りました。

電子レンジを用いたアセトアミノフェンの合成

千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 研究室の准教授 野口 拓也 先生の協力のもと、実験テーマ『電子レンジを用いたアセトアミノフェンの合成(Synthesis of acetaminophen by microwave)』を高等部2年生の希望者(33名)に行いました。

【参加生徒】

ク ラ ス 女 子 男 子 合 計
2年1組 12 名  9 名 17 名
2年2組  5 名  7 名 16 名


         
 野口先生から今回の実験に関する講義がありました。先生の研究は、新しい医薬品の開発です。先生はカルボキシ基とアミノ基の縮合反応に関して簡便かつ安価な方法を見いだし、これを利用した医薬品の合成を目指しています。    今回は時間の要する有機化学反応を、電子レンジの電磁波を利用することで非常に短時間に行う工夫をして頂いた。これによりP-アミノフェノールに無水酢酸を反応させるアセチル化を効率よく(収率78%)得られる実験を行った。    得られたアセトアミノフェンを副生成物や未反応物質(P-アミノフェノール)と分離する実験操作を教えて頂きました。分液漏斗を用いないので、実験操作はスポイトを用いて取り分けていきましたが、物質の状態を考えながら行うことが非常に難しかったです。


千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 研究室の准教授 野口 拓也 先生による、実験テーマ『電子レンジを用いたアセトアミノフェンの合成』の様子

生徒の感想(メディカルサイエンスノートの一部抜粋をしています)

 今回の実験では、合成したものを取り出すために物質の様々な性質を利用していることがよく分かりました。例えば、アセトアミノフェンが塩基性条件下では水に溶けるイオン状態になり、一方、副生成物では水に溶けない分子状態になって油層に溶けているなどの性質の差を利用することが理解できました。また、物質を酢酸エチルの油層側に移動するために試験管を良く撹拌する作業がありました。これは高等部1年生の時に行ったうがい薬に溶けているヨウ素をヘキサン層に抽出する実験操作を思い出しました。実験の途中に、試験管内で原因が不明のコンタミが起こったためか、本来できることがない青色の溶液になってしまいました。実験操作の際にはメモをしっかりと取りながら、かつ細心の注意を払いながら行うことを再認識することができました。

 今回のメディカルサイエンスでは、大学の先生から直接実験に関する勉強を教えて頂きました。試験管に酢酸エチルや塩酸、水酸化ナトリウムを入れる度に色が変わっていくことに感動しました。原理は教えて頂いたものの、実際に目の前で鮮やかに変化する現象を見させて頂いたので、とても印象に残りました。また、溶液に界面ができて、その上層や、下層だけをピペットを用いて取り出す操作が意外にも難しかったです。それと、今回の実験で電子レンジを用いて加熱時間を1分で終了させるのが非常に新鮮だと感じました。実験をあまりにも慎重にやり過ぎて、操作が遅かったので、もっと早く進められるようになりたいです。

 一つひとつの実験の動作に意味があって、先生に作成して頂いたプリントに書いてあることを理解しながら実験を進めていくというのがとても面白いと感じた。試験管を振る際のコツを直接野口先生から、手のひらに軽く当てながら振ると良いと教えて頂きました。その理由を尋ねると、溶液は左右でなく、上下に振った方が溶液が効率的に混ざると教えて頂き、一つひとつの動作を丁寧にやることの大切さを学ばせて頂きました。自分は今回の実験において文章を読み違えてしまったので、最後の最後の操作で実験操作の失敗をしてしまった。しっかりと実験方法を読まないで取り組むという失敗は、受験でも充分にあり得ることなので、注意を払って文章を読まなければいけないと学ぶことができた。様々な実験に用いる試薬を入れることで、色々な変化が起き、色々な臭いが変化したという化学実験の面白さに気づいた。次は、主体的に学び、一つひとつの操作を理解しながら取り組めるようにしていきたい。

 今回の実験では、いつもとは違って1人ずつ行うことができました。溶液の種類や入れる試薬の量がそれぞれ微妙に違っていたり、操作手順の丁寧さも違っているので、1人で実験を行うと実験操作など間違えてしまうのではないかと不安でした。しかし、班のみんなと協力して実験を進めることができ、大きな失敗をすることなく終えることができました。塩酸と酢酸エチルを入れた時、私の試験管の色が青くなり、驚きましたが、友達の試験管の色も青くなっていたので少し安心をしました。これは試験管の表面が汚れていたことが原因だったそうですが、混ぜていく度に色が変わっていき楽しかったです。同じ実験をしていても、班のメンバーではそれぞれ色が全然違っていて、色の観察をするだけでも面白かったです。今回は時間が短かったので最後まで行うことができなかったことが少し残念です。指導をして頂いた野口先生はとても明るく、面白い先生だったので、また野口先生と実験をしたいと思いました。

 ●  今回の実験は今までのとは大きく違っていました。一人一人に試験管やピペットが準備されていて、自分一人で責任を持って行わなければならない実験でした。まるで大学で行うような実験でした。だからこそモチベーションはとても上がり、自分の席について実験道具を見ながらワクワクした気持ちで一杯でした。実験はとても興味深く、人それぞれ違う色になることや、結果が多少なりとも変わっている所が単純に凄いなと感じました。私は、生成物の同定の実験で紫外線(UV)を照射した時に、3つのスポットが確認できたので成功したと思います。
 このような嬉しい気持ちがある反面、情けないことも多くなりました。野口先生の指示が理解できずに操作がもたついたり、そのせいで友達に尋ね、その友達の実験の操作を妨げてしまったこと。
 また、今まで私が行っていた学習は基礎の基礎で、実験結果の計算など、本当にやらなければならないことが多くあり、学ぶことはたくさん残っているのだと感じました。実験のそれぞれの操作の意味を調べて、これからの学校で多くの事を学ぼうと思いました。しかし、とても楽しかった実験でした。

 ●  抽出で分離した溶液をピペットを使って分けることが難しかったです。多い量を吸ってしまうと、減らした時に空気が入ってしまい、正確に取り分ける方法が気になりました。今まで試験管内で油と水が界面をつくって分離することを見てきましたが、実際に分離した片方をスポイトで吸うのは初めての経験で、このような簡易的な実験操作があることに驚きました。まだまだ知らない実験方法がたくさんあると思うので、これからも学んでいければ良いなと思いました。
 また、クロマトグラフィーは高等部1の時の化学の試験範囲で、一度はやってみたかったので、今回その機会があって嬉しかったです。最終的に私が実験して得られた試料からは3つのスポットが確認できず、2つのスポットだけでした。その原因を追求して、もう一度やってみたいと思いました。

 ●  普段は物質の反応を見る実験が多いが、今回は物質を合成し、その物質を取り出し、単離することでとても実験をしていて楽しかった。アセトアミノフェンと副生成物は水に溶けたり、p-アミノフェノールは塩基性にすることで有機層から水の層に移動し分かれるなど、理論上ではそうなると思われていることが目の前ですぐに実験で確認できてより考えを深めることができました。時間が短く実験時間内にすべての操作が終わりそうになく焦ってしまったが、クロマトグラフィーによってスポットが3つ確認できました。今回の実験の過程が長かったので、結果がしっかりと出た時に非常に感動しました。次回の実験では手際よくしつつ、少しの変化にも気付く目をしっかりともって実験を進めていきたいと思いました。