放射線を測定して、 バクテリオファージの DNAとタンパク質を追跡しよう!

 目 的  :  バクテリオファージは、バクテリア(細菌)の中でのみ増殖できるウイルスの一種であり、タンパク質とDNAのみからできています。  バクテリオファージを用いた実験は、遺伝の仕組みの解明に大きな役割を果たしました。
 なかでも1952年にハーシーとチェイスが行ったバクテリオファージのタンパク質とDNAを異なる放射性同位元素で標識してその振る舞いを調べた実験は、DNAが遺伝物質であることを多くの科学者に納得させるものでした。
 また、この実験で用いられた放射性同位元素は、今でも生物学の実験に欠かせないものです。
 今回の講座では、ハーシーとチェイスの実験の中心になる部分の再現を試みるとともに、放射性同位元素の安全な使用法を学びます。
 まず、携帯用の簡易測定器を用いて身の回りの物から出てくる放射線を数えたあと、同じ機器で実験室の中で使う放射性のリン-32とイオウ-35から出てくる放射線を数え、放射線の透過性などの性質を調べます。
 その後、放射線の計数によって極めて少量の物質を測定できることを利用して、放射性のリンとイオウでバクテリオファージのDNAとタンパク質に目印をつけ、バクテリオファージが大腸菌に感染するとき、どちらが大腸菌のなかに入っていくか追跡する実験(ハーシー・チェイスの実験)を行います。
 
これらの実験をとおして、放射線の測り方を知り、その性質や放射性物質の使い方を理解します。

なお、本講座は、日本学術振興会による「ひらめき☆ときめきサイエンス」のプログラムに他校生と共に本校生の高1希望者10名が参加したものです。
「ひらめき☆ときめきサイエンス」は、大学や研究機関で「科研費」(KAKENHI)により行われている最先端の研究成果に、直に見る、聞く、触れることで、科学のおもしろさを感じてもらうプログラムです。

場 所  :  東邦大学習志野キャンパス 理学部
 千葉県船橋市三山2-2-1
講 師   :  東邦大学 理学部 生物分子科学科 佐藤浩之 教授 ・ 藤崎真吾 教授
参加生徒   :  高等部1年 医科コース 希望者 10名
 日 程  :   7月30日(土曜日)

スケジュール

 時 間  内 容 
 09:20  現地集合
 09:30  全体の概要説明、実験理論、実験方法の説明、科研費の説明
 10:10  さまざまな放射線の測定原理の解説と、実際の放射線測定
 11:20  ハーシー・チェイスの実験とβ線の測定法の説明
 リン-32とイオウ-35の放射線測定 
 12:10  昼食(学生食堂) 
 13:00  リン-32標識バクテリオファージの大腸菌への吸着実験
 13:30  リン-32標識およびイオウ-35標識バクテリオファージの挙動追跡実験 
 14:40  携帯型測定器による放射能の測定
 15:50  結果の解釈と総合討論 
 16:00  生徒と講師・大学院生との懇談(クッキータイム)
 修了式(アンケート記入、未来博士号授与)
 16:50  終了・解散


       
 津田沼からのバス組が東邦大学に集合     いよいよ講座が始まります  
       
       
 初めて見る実験器具も多く、わくわくします     まずはバックグラウンドの放射線量の測定です  
       
       
 放射線計測器を使い、放射線量を測定します    リン-32とイオウ-35の測定は注意深く行います  
       
     
 実験操作を慎重に確認しながら実験を進めます    役割分担を工夫して上手に測定しています  
       
       
 測定結果は予想通りでしょうか    データの処理をして次の実験に備えます  
       
       
 大腸菌にバクテリオファージが感染する説明です    お昼は学生食堂を体験  
       
       
 チキン系の定食が人気のようです    現役大学生と一緒に学食を満喫  
       
       
 いよいよ大腸菌の登場です    マイクロピペットの使い方にも慣れてきたようです  
       
         
  実験結果はすぐに記録    正確に溶液を測り取ります    ラミネートろ紙に染みこませ乾燥させます
         
       
 みんな集中して実験に取り組んでいます    複数の試料をそれぞれラミネートろ紙に染みこませます  
       
       
 4つの試料を乾燥させます    常に確認しながら実験を進めます  
       
       
 協力して実験を進めます    放射性物質を扱う場合は手袋をして慎重に実験  
       
       
 撹拌してファージを大腸菌から離脱させます     遠心分離器の操作にも慣れてきています  
       
       
 講師の先生方、TAの皆様、ありがとうございました    貴重な実験を行い、充実した1日でした  


参加生徒の感想(一部抜粋)

・講座のはじめの説明の時に、高校生でこのような実験ができるのはここくらいしかないというお話をうかがって、とても参加して良かったと思いました。
生物基礎の教科書に載っていて、授業で学習したばかりの内容を、実際に自分の手で実験できたのは貴重な体験になりました。
実際に実験をして、放射線を測定したり、マイクロピペットを使ったり、初めて触れる実験器具も沢山あり、とても楽しかったです。


・私は今回とても貴重な体験をさせてもらいました。マイクロピペットなど、今までに使ったことのない実験器具を使い、同じ作業を繰り返したり、対照実験もしました。
放射性同位体を使うので、注意深く扱うことも学びました。また、研究することにも興味を持ちました。

・使ったことのない実験器具を使うので少し緊張しましたが、講師の先生方やTAのサポートのおかげで、しっかり使えるようになりました
また、器具の充実した今でこそやりやすく実験できましたが、昔は実験をするのも大変だったと思います。
それをやり遂げ、成功させたハーシーとチェイスの沢山の努力も実感しました。

・今回印象に残ったのは、何度も大腸菌やファージをチューブに移し換え、遠心分離をしたことです。
教科書に載っている実験を手順を追いながら再現することで、一つ一つの操作の意味を考え、理解できて良かったです。

・ハーシーとチェイスの実験では放射性同位体を使った貴重な実験をすることができ、実験についてより理解を深めることができました。
実験では今まで使ったことのなかったマイクロピペットなどを使いました。このような使ったことのない実験器具に触れて、とてもわくわくしました

・実験の初めはとても不安でしたが、講師の先生方やTA、友達のサポートもあり、楽しみながら実験に取り組めたと思います。
今回のような長時間に渡っての実験も初めてだったので、より詳しく理解することができました。

・授業でハーシーとチェイスの実験について、学習はしていたものの、具体的にどのような実験であったのか、今回実際に実験するまで想像がつきませんでした。
まさに百聞は一見にしかずです。また、今回驚いたのは高い技術がないとハーシーとチェイスの値には近付かないということでした。
講師の先生方もこの実験が最近ハーシーとチェイスの値に近付いてきたと話されていました。
実際の目で見て、体験してみないとわからないものがあるので、これからは色々なことに挑戦してみようと思います。

・ハーシーとチェイスの実験は教科書を見ているだけでは「難しい」という印象しか受けなかったのですが、今回実際に実験をしてみて、より理解が深まりました
今まで疑問に思っていた点も、今回の実験を通して納得できたので、とても有意義な時間でした。

・今回、ハーシーとチェイスの実験に参加して思ったことは、難しい実験であればあるほど、実験方法の把握や結果記入が大切だということです。
普段はできない経験ができて本当によかったです。