おススメの本  その3

20世紀の恩想〜マルクスからデリダまで〜

加藤尚武著 PHP新書

  文芸部というよりは弁論部員あたりが読む本という感じで恐縮ですが、哲学者の著作を紹介させていただくことにしました。

 貴方は今までの人生で他人にたいして「コイツは間違っている」「どうしようもないヤツだ」といった感想を持ったことがありますか?他人に対し、怒りや疑念を持ったことがありますか?そして、もし貴方が他人に対し怒りや疑問を持ったことがあるとしたら、貴方は反対に他人から怒りや疑念を向けられたことはないでしょうか?他人に心無いことを言っていないでしょうか?心無い行いで他人を傷つけたり、困らせたりしていないでしょうか?あるいは、貴方は誰かの考えに操られていないでしょうか?聞違った考えを妄信していないでしょうか?妄信を恐れて、過剰な不信状熊になっていないでしょうか?正当な理由無しに、何かを否定していないでしょうか?正当な理由無しに、何かを認めてしまっていないでしょうか?

 二十世紀には様々なことが起こりましたし、今も起こっています。ファシズムを人民が熱狂的に支持しました。人類の友と信じられた科学が環境間題を起こしました。無限の発展の夢は地球の有限性の前に崩れ去り、残ったのは過剰な人口と浪費的な都市生活でした。次は何が私違を裏切るのでしょう?私違は今如何なる間違いを犯しつつあるのでしょうか?

『真実を知りたい』これは人類の夢の一つです。私違は過ちを恐れ、何とかして正しい答えを見つけだし、その答えが正しいと言う保証が欲しい。この『20世紀の思想〜マルクスからデリダまで〜』は、そんな人聞の夢を追い続けた哲学者違の思考の軌跡を追った『学間としての西欧哲学の入門書』です。普通の小説と比ぺると難解な言い回し、概念もありいささか難しい本ですが、より難解な、思想を語る本へのステップとしてお薦めです。

 昨今何を信じていいのか分らないと言うことがよく言われます。こうした本を読み、精神を武装し、何を信ずるべきかを自分で考えるようにしてもらえればと思います。

 

般若心経講義

高神覚昇著 角川文庫ソフィア

 最近はこんな御時世ですから、仏教関連書籍が書店の入り口近くに平積みになっていたりします。何にでも文旬をつけたくなる若者としては、なんとなくこうした本も『アジアパワーで心の平安を得よう!』という安易な考えに基づくハウツー本の類のように思えて疑問を感じますが、まあバブル期からすれぱ人々が手元から目を放して遠くを見る機会が増えたということで、喜ばしいことかなとも思います。

 さて、読書人たる皆様は本を読み捨てにしたりはしないということに致しまして、この『般若心経講義』を紹介したく思います。皆さんは仏教思想について何を御存知でしょうか?もはや若い層に虚無主義、刹那主義が拡がっているといわれて久しく、最近では小学生ですら、ませた子なら『色即是空』の意味くらいは知っています。『現実世界は空しいものだ。現実の事に縛られてはいけない』仏教思想をこんなふうに考えて、分かったつもりの人は多いのではないでしょうか?しかしながら、この理解から生じる虚無、刹那主義的傾向とは全く異なる傾向を、この本は示します。般若心経は600巻にのぼる漢語の教典『大般若経』の精神を凝縮したものとして生まれた教典だということですが、この本で『色即是空 空即是色』に対する仏教看の解釈に触れてみてはいかがでしょうか。この本を読んでよくよく考えれぱ、ものの考え方をより広めることができるかも知れません。

 またこの本は仏教用語を懇切丁寧に説明してくれていますから、この本をステップとして鈴木大拙の本などに手をだしてみるのも面白いでしょう。

 

ロードス島伝説 太陽の王子、月の姫

水野良著 角川mini文庫

 固めの本が続きましたから、少々柔らかいのを御紹介しましょう。(ギャップが大きすぎますかね)

 最近でこそ恩想書なども読み始めた私ですが、一時期はファンタジーにはまっていました。RPG的要素の強いものとしては『魍魎戦記MADARA』や『ロ一ドス島戦記』『ロードス島伝説』は全巻をそろえ、あとは書店でパラパラめくったり、ブックレットの紹介を読んだり、友人から借りたりして読んだものです。

 さて、上記の『ロードス島○○』というのは全て水野良の作品なわけですが、かれは元来作品の中に何かしら主張するものをこめようとしていたようで、戦記の一巻から無理があるながらもそうした事に気を遣って書いています。が、どうしてもストーリーがRPG臭くなってしまう、エピソードの無理な挿入がある、などのアラが見えていました。

 しかし『ロードス島伝説太腸の王子、月の姫』は伝説のストーリーの裏側の物語、いわば周辺ストーリーとして書かれたものですが。まず冒険談でないためにストーリーのRPG臭さがありません。また短編のために無理なエピソード挿入もなく、内容も主題が「人聞の止むに止まれぬ欲望がひき起こす悲劇」に絞られている、全体が閉息感を基調としており、主題や登場キャラクターの官能的な美しさと相まって統一された雰囲気をかもし出しているなど、最近人気のファンタジー小説とは一線を画するものがあります。

 またファンタジー小説のお約束で挿し絵が入っていますが、この挿し絵(山田章博 画)もアニメ画ではなく、きちんとデッサンをしてから描いたという感じで、服装もきちんとヨーロッパ文化を意識して描かれているようです。表紙の繊細な描き味で描かれたナシェル王子の、しっとりとした髪、瞳、唇、金細工の施された服飾などは非常に宜しいかと思います。(さすがにクサイ。爆)

 これがささっと読めて¥200少々なら、買ってみても悪くはないかなと思います。あとファンタジー小説にどっぷりはまっている方には絶対おススメ。これが面白いと思ったら今度は新潮の『ロミオとジュリエット』あたりへ飛んでみましょう。シェークスピアも肩の力を抜いて読むと、意外に軟らかいです。

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