おススメの本 その1
BLACK OUT 渡辺浩弐 幻冬舎文庫
20世紀末、科学が人間を征服した。今だかつてない超ハイテク犯罪に科学捜査部が立ち向かう。クールに淡々と話は進む。
去年の秋、本屋でこの本を見つけたとき、とにかく感激した。BLACK OUTには95年からずっととりつかれていた。
科学捜査部は西北大学理工学部講師・華屋宗一と2年間FBIに留学していた中園祥子の二人。こういう人たちなので、どんな状況でも感情が動かない。そこに、大袈裟なくらいショックを受けるシーンが挟まれることで、事件の深刻さ、残忍さを印象づけられる。彼らの戦いは科学と倫理の戦いに見える。これは現在たびたび論じ合われていることだ。95年、私は挙行の未来を描いた深夜ドラマを新鮮な興奮で見ていた。しかし今、どうであろうか。
つぶやき心理学 つぶやきシロー 実業之日本社
日常生活に潜むちょっとしたことを、つぶやくようなしゃべりでネタにするつぶやきシローの「努力なき一発エッセイ」。実は心理学部出身。
日常生活に転がっているフツーのことをつぶやきシローのテンションで書いたもの。でも、読んだ後は何だかほっとする。「あ、今日のお新香おいしいね。」それくらいのささやかな感動を発見できる一冊。
きらきらひかる 江國香織 新潮文庫
笑子はアル中で、夫の睦月はホモで紺という恋人がいる。二人は全てを許し合って結婚した。問題の多い結婚生活の物語。
彼らの考え方はとても自由である。しかし結婚を通して世間の干渉力が強まってくると、彼らの自由な考えは押しつぶされ、窮屈になっていく。相手を思いやることが相手を束縛し、傷つけてしまうことに苦悩する。それでもなお、愛することをやめられない。世間から見れば、何もわかっていないままごとのような結婚かもしれないが、それがうらやましく写った。ラストは驚くほど爽やかな幕切れである。人はどこまで解り合えるのか? 彼ら三人を取り巻くものは究極のプラトニックラブだと思う。
無印結婚物語 群よう子著 角川書店
まず、これを読んでいる未婚者の方、あなたは結婚と又その後の生活というものについてどんな想像を抱いていますか?そして既婚者の方、結婚及びその後の牛活は、自分がそれ以前に想像していたものと比べてどのようなものでしたか?
この群よう子さんの無印結婚物語という作品は、結婚にまつわる12コのエビソードが綴られています」結婚する前はこんなはずではなかったという話。結婚した男が実はマザコンで、毎週のように実家へと帰ってしまう話。自分の抱いている「妻」の理想像を押し付けようとする夫の話……等々。
きっと、結婚したその後が、すべて白分の思い通りいくなどと言う事はほとんど無いのだろうと思いました(結婚といったってそこに関係してくるのは自分自身だけでなく、伴侶となるべき相手、又その家族などがいるわけです)この現代でさえ、そんな状態なのですから「いえ」の概念のあった昔はもっと不自由な結婚と、その後の生活に人々は縛られていたのだろうなと思いますね(いや、家の概念で、理想の形がほぼ統一されていたということは逆に、白分の結婚に不満を持つ人は少なかったのかも……)
まあ、そんなに硬い感じのする本ではないですし、厚さもそんなにありませんのでぜひ読んでみてください。
ファンレター 折原一 講談社
題名そのまま通り、ファンレターにまつわるお話であります。とある覆面作家と、その熱狂的なファン、そして覆面作家で正体がわからないことから現れる偽者の作者。熱狂的な、そして徐々にずうずうしくなっていくファンが引き起こす傷害事件。偽者の覆面作家の執り行う講演会の話。詳しい外見が知られていない限り、誰かが誰かに成り済ますだなんて事は、以外と簡単にできるのかもしれません。もしも私が、「日本国の総理大臣をやらせてもらってる小渕です」などといっても誰も信じないでしょうが、もっと知名度の低い単位での成り代わりは比較的容易なことでしよう。まあそういうわけで、ちょっと怖い感じがしつつもなかなか面白い作品なのでこれもお勧めです。
白い巨塔 山崎豊子 新潮社
角川、講談社と来て、最後は新潮社から出版されている山崎豊子「白い巨塔」であります.この作者はなにやら「沈まぬ太陽」で又話題になっておりますが、6,7年前も「大地の子」の日中合作のNHKドラマ化で有名になった(あまり詳しく覚えてはおりませぬが……)御方であります。
さてこの白い巨塔(初版が昭和53年なのでもうずいぶん古いですが)とは何の話かと申しますと、一言で言えば病院の話であります。病院の話と聞いて、某米国作のE○などを思い浮かべられる方もいらっしゃるかもしれませんが、本作品はどちらかというと(というか思いっきりですが)医療界のどろどろした話を書いております。大学教授の選挙票集めに、実弾(カネ)をばら撤いたり、医療ミス(今も多いですが)の揉み消しに奔走したり、まあそんな話であります。
私がこの作品において、ひたすら感心するのは手術の様子や、医療界の組織の細かいところまで入念に調べ上げた上での、正確な(又は正確に思わせる)描写であります。上巻、下巻に分かれておりちょっと長い(そうでもないか?)ですが一読(個人的には「大地の子」も)をお勧めします。
ジキル博士とハイド氏 スティーブンソン
スティーブンソンの小説というと「宝島」が有名でしょう。冒険小説の傑作として盛んに読まれるようになったこの「宝島」の3年後に、わずか数日で書き上げられたものが「ジキル博士とハイド氏」です。お薦めどころは人間の心を忠実に表している点です。勿論、ジキル博士とハイド氏という正反対な性格の持ち主の2人が実は同?人物だったという話の展開もおもしろいですが、それ以上に人間の心の奥底にひそむ善と悪の闘いを2人の人物に象徴させ、我々に訴えていることがこの小説の素晴らしさだと思います。
緋色の研究 コナン・ドイル
“シャーロッキアン”という熱狂的ファンを生み、世界的大人気を博したのがコナン・ドイルの“シャーロックホームズシリーズ”です。そのシリーズ中一番最初の話が「緋色の研究」なのです。ドイルの作品のお薦めは、何度読んでも飽きず、何度読んでも新たな発見があるところです。初めはただひたすらホームズという男への感心でしょう。しかし、次に読むと、初めは気がつかなかった発見があるのです。そしてもう一回、…さらに新たな発見が我々を待ちます。そしてもう一回…。もっともこうして読んでいくうちに、シャーロッキアンとなってしまうのかも知れませんが…。
宣告 加賀乙彦
宣告…上・下から構成されるこの本を手にした誰もが“長い”そう思うでしょう。現に私も最初はそう思いました。確かに長いことは事実であり、暗いことも事実です。しかし、私は加賀乙彦の表現力にいつしか好感を覚えていました。「宣告」は死刑宣告を受けた死刑囚の様子をいきいきと描き、人を殺した極悪人という檻に入れられた彼らを別の面、別の視点から考えさせてくれます。人を殺したものは死をもって償う。現在の死刑制度そのものを見直すこの本は、我々に広い視野から物事を考えることを教えてくれているのではないでしょうか。