創立記念講話

令和元年11月1日(金)


本校にとって十一月五日は、四十二回目の創立記念日となります。五月一日に新天皇が即位され、平成から令和へと時代は変わり、十月二十二日には、「即位礼正殿の儀」が、古式ゆかしく伝統に則り厳粛に挙行されました。日本という国の伝統の重みと文化の豊かさを実感したことと思います。本校は一昨年創立四〇周年記念式典と祝賀会を盛大に挙行致しました。そして、ニュー江戸取として「世界型人材の育成」を目指した様々な教育改革を行い、生徒たちの主体性や自主性を育む教育に力を入れています。今年度は「深化と挑戦」をスローガンとして、教育内容を深め、生徒たちが夢や目標に向けて積極的にチャレンジできる環境を整えてきました。創立記念日を迎えるに当たり、本校の歴史と伝統を振り返り、江戸取生としての誇りを自覚することは、これからの学校生活を充実させるために、とても意義深いことであります。
さて、本校の母体となる学校法人江戸川学園が、創立五〇周年記念事業として、共学の進学校を創る計画を理事会で決定したのは、開校十年前の一九六八年(昭和四十三年)でした。そして、取手市の協力を得てこの地に校地が確定し、茨城県から設置認可が下りて、一九七八年(昭和五十三年)四月一日に、本校は目出度く開校の運びとなりました。工事期間は一年を要し三月末には完成しましたが、一月の入学試験にはまだ校舎が完成していませんでしたので、茨城県の受験生は取手一中をお借りして入学試験を実施し、千葉県や東京、埼玉県の受験生は柏市の柏中をお借りして入試を行いました。両会場併せて二一八四名の受験生で、活気のある第一期生の入学試験でした。そして、四月六日には高等部第一期生九九八名を迎えて、晴れの第一回入学式が体育館で厳粛に挙行されました。第一期生の入学式が滞りなく行われたことは実に感慨深く、四十二年が経った今でもあの入学式の様子が脳裏に浮かびます。開校前は、何もない原野のような自然の中に、学校建設の土音が響き、冬場には悠然と流れる利根川の向こうに霊峰富士がくっきりと雄姿を見せるロケーションは、これからここで学ぶ若人たちの夢を育む場にふさわしい機運に満ちていました。しかも「世界を築く礎」となる人材を育成するという建学の精神に胸が高鳴る思いでした。あれから満四十二年の歳月が流れ、こうして四十二回目の創立記念日を迎えることができることに、学校長として卒業生を始め、これまで本校に関係した大勢の人たちに対して、感謝の気持ちで一杯であります。
本校の建学の精神である「世界を築く礎となる人材の育成」は、校歌の中に込められています。校歌の作詞者は詩人の三好豊一郎先生、作曲は当時武蔵野音大教授の鏑木貢先生です。両先生は、校歌を作るためにわざわざこの地を訪れています。当時の記録によると、三好先生からの次のような手紙が届いています。一部を紹介します。
「校歌を作るために、鏑木さんと訪ねた時は、まだ校舎はなく、広い運動場の整地が行われている最中でした。初夏で遠くの空はもやっていましたが、空気が澄む秋や冬には遙かに富士が見えるはずだと、利根川をひかえた広い空間を前にして、心の広がるのを覚えました。(中略)朝には霜を踏み夕べには寒風を突いて歩むはつらつとした若者の姿が思わず目に浮かびました。この世界の礎は、ひとり、ひとりが個性を発揮させることで豊に築かれるでしょう。その若者の情熱・熱意こそ、未来を開き、時代を担う力となるでしょう。そしてその力を働かせるには、どんな場合でも卑屈にならず、知恵ある行いをし、その行いに責任を持つことが大切で、これは校訓の「誠実・謙虚・努力」を歌詞の上で表現したつもりです。」という内容の手紙です。したがって、校歌を斉唱する際は、こうした建学の精神や校訓が反映されている歌詞であることを意識して、「溌剌と力強く希望を持って高らかに歌う」ようにして下さい。
さて、高校が開校して九年後の一九八七年に中等部を開設して、本校は中高六ヵ年一貫教育校となりました。中高一貫校となって以降、進学実績も年々アップし「規律ある進学校」としての評価が高まっていきました。開校から一〇年、中等部も開設したのを機に、制服を濃紺の制服からモスグリーンの制服へ変更しました。そして、四十一年目となる昨年度から、第三代目となる制服へと変更し、これまで以上に品格と知性が感じられる制服となりましたので、その制服に相応しい品性を備えた江戸取生に成長してほしいと思います。
また、本校は二六年前の一九九三年に医科コースを開設して、特色ある医科教育を行い、全国的にも注目されるようになりました。施設面からみても、一九九九年にはオーディトリアムが完成して一流のイベント教育が出来るようになりました。二〇〇一年にはコミュニティホールが完成し、食堂としてだけではなく生徒たちのコミュニケーションを深める場としても様々に活用されるようになりました。二〇〇八年には創立三〇周年記念事業として自然科学棟が完成し図書館と一体となって、理科教育に止まらず智の宝庫としての存在感が加わりました。現在、創立四〇周年記念事業として、二〇二〇年四月竣工を目指して、「さくらアリーナ」の建設が進められています。
念願であった小学校も二〇一四年の四月に開校して、本校は茨城県初の小中高一二ヵ年一貫教育校へと大きく進化発展しており、今年度江戸取小の第一期生たちが中等部へ進学して、小中の接続が現実となりました。
いま、日本の教育は大きな変革の時代を迎えていますが、本校は開校時から将来を見通した教育理念のもとに、「規律ある進学校」としての人間教育に力を入れてきました。制服の襟に輝く校章は、悠久の未来へと流れる川をデザインし、三つの菱形には心力・学力・体力の三位一体の教育と誠実・謙虚・努力の校訓の三つが込められています。その重みを大切にしてほしいと思います。今春卒業した高等部三十九期生までの卒業生の数は一九〇八四人となりました。今や国内だけではなく世界の各地で卒業生たちが活躍しています。
本校は開校時から、生徒たちの人格を磨き、学力向上に努め、文武両道を方針としてきました。この方針は今後も変わることはありません。部活動に於いては開校三年目で硬式野球部が甲子園出場を果たしました。他の部活の中からも関東大会や全国大会に出場した部活も複数あります。最近では、チアリーダー部が二〇一五年にアメリカのロサンゼルスで行われた世界大会に出場して優勝しています。
進学面では東京大学を始めとする難関大学や医学部への実績を積み重ね、名実共に「規律ある進学校」として全国に名の知られる学校となりました。東京大学には第七期生から一名合格して、その後途切れることなく毎年合格者を出してきました。累計で三三四名となります。また医学部医学科の合格者数は累計で一四六六名となります。こうした実績と伝統を受け継ぎ、諸君は更なる実績を重ねて欲しいと思います。先輩の実績を越えていくことが後輩たちの務めであります。
世界型人材を目指す江戸取生として、日々自らの人格を磨く努力を怠ってはなりません。その為にも明るく元気よく挨拶をする習慣を身につけて下さい。礼節が身に付き人格が豊かでなければ、国際社会では相手にされません。日本で行われているラグビーのワールドカップ日本代表の選手たちの活躍は、そのことを如実に物語っています。自主性・主体性を育て、学力や体力を磨き、将来、世界に通用する人間力のある人になって欲しいと思います。「誠実・謙虚・努力」の校訓を皆さんが体得できれば、各自の個性がさらに輝きを増していくことは間違いありません。
十一月五日は創立記念日で自宅学習の日となりますが、今日の講話を踏まえ、入学時の初心に立ち返えって、江戸取生としての自覚を深める一日にして下さい。そして、一〇年後の自分、二〇年後の自分の姿を思い描き、夢の実現への決意を新たにしてほしいと思います。
最後に、本校の益々の発展と、諸君の限りない成長を願って創立記念講話と致します。