アフタースクール 大学の有機化学実験

 1.  目 的  専門性が高い大学の教授から直接指導を仰ぐことで、幅広い教養と豊かな人間性、自ら考え解決するために必要な基本的知識や、建設的に行動できる態度と習慣を身に付ける。
 
 2.  実施日
(時間)
 2022年1月13日(木) 第7回目(全8回の実験を予定しています)
  前半 16時15分 〜 17時50分 (95分)
  後半 17時55分 〜 19時30分 (95分)

 3.  講 師  千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 教授 このアフタースクールの大学側の統括責任者
 千葉科学大学 薬学部 薬学科 川島 裕也 助教(今井グループ)
 江戸川学園取手中・高等学校 医科コース長 兼 龍盛 このアフタースクールの高校側の企画・運営

 4.  会 場  江戸川学園取手中・高等学校 自然科学棟 化学室β

 5.  参加者  高等部2年生対象
  前半 受講者26名  参加者24名(欠席者:2名)
  後半 受講者29名  参加者27名(欠席者:2名)

 6.  実験内容  アセトアミノフェンの単離精製(収率について)

 ★  本来は、千葉科学大学の学長と本校の学校長および関係者が集まって調印式典を行う予定でした。今年度は、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、残念ながら式典は行いませんでした。

 ★  しかしながら、書面にて令和3年9月22日に千葉科学大学と江戸川学園取手中・高等学校は、教育提携に関する協定書に調印しました。

実験の予定 有機化学実験を体験@〜G(生徒の実験操作の技術や理解度を見極めて、実験内容を適宜変更していく予定です)

 回数  日付  担当講師  実験の題目(予定)  実験の内容(予定)  備考
 1
 10月14日

 今井 信行
 川島 裕也
 ルミノール反応  ルミノールを合成し、ルミノール反応で同定  極めて少量(mg単位)の試薬を用いる実験

 10月21日

野口 拓也  エステル化と加水分解  エステルの合成およびせっけんの合成  センター試験20,18,13年に類題が出題
 3
 10月28日

 野口 拓也  鎮痛剤と湿布薬  加水分解とエステル化の応用  センター試験18,14年に類題が出題
 4
 11月04日

 野口 拓也  電子レンジ@  実際の有機化学反応を体験@
アセトアミノフェンの合成とTLC
 センター試験19,15年に類題が出題
 5
 11月25日

 野口 拓也  電子レンジA  実際の有機化学反応を体験A
アセトアミノフェンの合成と分液による分離
 センター試験19,15年に類題が出題
 6
 12月02日

 川島 裕也  電子レンジB  実際の有機化学反応を体験B
アセトアミノフェンの合成と濃縮および単離精製
 センター試験19,15年に類題が出題
 
 01月13日

 川島 裕也  電子レンジC  実際の有機化学反応を体験C
アセトアミノフェンの合成と濃縮および単離精製
 センター試験19,15年に類題が出題
 8
 01月27日

 今井 信行
 川島 裕也
 メチルオレンジの合成  アニリンからジアゾニウム塩の調整とジアゾ化  センター試験19,15年に類題が出題

1回目の実習は、有機化学実験に向けて、生徒の心をキャッチするルミノール反応、2〜3回目はカルボン酸・エステル関連、4〜7回目は含窒素化合物関連を配置しました。薄層クロマトは4回目に原理を説明します。そして6回目まで反応を追跡、生成物の同定の用途で使用します。今回用意したテーマのほとんどはセンター試験にも出題されており、実験を行い、関連するセンター試験の問題を解説することも可能です。

 

小中高校生のためのT方式簡易型有機化学実験(CISブランド合成研プロジェクト1)で紹介されているスーパーコックです。
これにより、非常に高価なエバポレーターが不要になり、高校でも効果的な実験が行えました。


研修風景

         
 今回は、川島先生から主に「収率」についての講義がありました。カラムクロマトグラフィーを用いて分離および精製を行うことで合成したアセトアミノフェンを濃縮し、収率を求める手法を教えて頂きました。今回の実験のためにテキストを作成して頂きました。    TLC(薄層クロマトグラフィー)を用いて、目的の化合物の様子を確認しました。アセトアミノフェンにはベンゼン環があるので、UV(紫外線)の吸収で確認できます。また、PMA(リンモリブデン酸)を用いて、同様に有機化合物の確認も行いました。    今回は定性実験でなく、定量実験を行いました。そのため大学から風防してある電子天秤を持ってきて下さいました。このような測定装置や試薬のすべては、今井先生の方ですべて準備をして下さいました。そのため実験も良好な結果となりました。
         
         
 スモールスケールでのカラムクロマトグラフィーです。TLCとの違いや、原理を教えて頂いたので、初めは何が起きているのか分からなかった生徒たちですが、手を動かすうちに、目の前で起きている現象を、頭の中で想像しながら実験を行うことができるようになりました。    TLCのスポッティングの様子です。初めは、試料をキャピラリーでスポットすることが非常に難しい実験操作でしたが、何度も失敗を繰り返していくうちに操作のコツをつかんだようです。抽出した試料溶液に目的物質が流出されたか確認するためにTLCを活用しました。    実験を終えるとデータの分析を行いました。今回は大学院生が2名アシスタントとして来校されたので、恥ずかしがることなく、より多くの生徒が活発に議論をすることができました。大学院生の的確なアドバイスもあり、その議論の過程で、理解が少しずつ深まっていきました。


 

川島先生の説明を聞く生徒たちの様子

 今回のアフタースクールの講座名は、「大学の有機化学実験」となっております。しかしながら、できるだけ特殊な器具を用いないように、今までの経験に基づいて今井先生が研究して下さった実験法で、より教育効果が高い実験となっております。今井先生の目標としては、「どの高校でもできる有機化学実験」であり、それに沿って実験開発を行って頂いております。従って、大学で行うような長時間の実験や特殊な実験器具は、今井先生のアイデアと技術によって改善されております。
 今回のアフタースクールでは、実際に実験技術が未熟な普通の高校生を対象に実施しています。
 そして、誰でも有機化学実験を楽しめる実験となっております。

 尚、本実験に関する詳細(使用した試薬や実験操作など)に関しては、このアフタースクールの大学側の統括責任者である 千葉科学大学 薬学部 薬学科 今井 信行 教授 にお尋ね下さい。


感想

 濃縮する時の仕組みを丁寧に教えて頂き、完璧に理解することができて嬉しかったです。また、それらを理解した上で実験を進めることができたので、とても楽しく行うことができました。回数を重ねるごとにTLC分析も得意になってきて、どんどん実験が楽しくなってきました。

【1組 女子 O.R.さん】

 ●  実験の時間が足りなく、自分たちで収率を調べるところまで行かなかった。大学の先生からSn(スズ)などの触媒がどのように作用するのかを聞くことができたのでとても良かった。有機化学の反応を段階的に分けて習うのは少ないので、実験を通して学ぶことができてとても良かった。
 
 【1組 男子 A.Y.くん】

 ●  パスツールピペットを活用した「シリカゲルカラムクロマトグラフィー」で溶出したサンプルをTLC分析で確認すると、アセトアミノフェンが出終わらず、濃縮と収率の計算まで終わらせることができなかったので残念でした。最初は5、6本のサンプル管で終わるのだと思って、7本目のサンプル管の設置をしていなかった。そのため、充分にアセトアミノフェンを取り切れず、収率も下がってしまったのだと思う。次回行うときには、もっと早く実験を行うようにしていきたい。
   【2組 女子 T.E.さん】

 ●  スラリー状にしたシリカゲルを圧縮して溶出させる際に一部を乾燥させてしまい、実験が上手くいかなかったりしたので、実験をする際は、実験を行う手順の目安を付けて行うべきだと反省した。また、TLC分析の時に5本目のサンプル管を取り終えた時もスポットが観察された。そのため、5本目のサンプル管ではすべてのアセトアミノフェンが濃縮できていなかったことがTLCによる簡易的な分析によって分かったので、収率が悪くなっていたと思われた。そのため次回に繋げていきたいと思った。
   【1組 女子 U.M.さん】

 ●  今日の実験は年が明けて久しぶりの実験でしたが、比較的スムーズに実験を進めることができたと思いました。合成の回数を繰り返せば、繰り返すほど収率が低くなることを知り、どれだけ1つ1つの実験の誤差が最終的な収率の差に現れてくるのか良く理解することができました。
   【2組 女子 S.K.さん】

 ●  TLC分析は前回の反省を活かして行うことができたので上手くいったと思う。また、時間をかけすぎてしまったので、最後の濃縮まで終えることができませんでした。収率を高くするのは非常に難しく、他の班が算出した80%で凄いと思っていたけれど、有機化学の合成を繰り返すほど低下することを教えて頂き、大変だと思った。仮に、収率80%の合成を2回行うと、0.8×0.8=0.64となり、64%にまで低下する。多くの合成を繰り返す場合は、一つ一つの実験で研究を行い、高い収率を出す工夫を要する必要があると理解することができた。
  【2組 男子 T.J.くん】

事後アンケート


【項目】 @すごく長い Aやや長い Bちょうどよい Cやや短い Dすごく短い

T.実験の時間について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者24名)と、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)は、項目Bの「ちょうどよい」を選択している生徒が一番多く、第7回目のアフタースクールの実験の時間に問題がなかったと評価することができました。しかしながら、項目Cの「やや短い」を選択する生徒が前半に参加した生徒では10名(42%)、後半では5名(19%)いました。これは、生成物(アセトアミノフェン)をスーパーコックを用いて溶媒を飛ばすのに時間を要し、且つ、今までの定性的な実験でなく、定量的な実験になったので生徒たちが不慣れな事に起因すると考えています。
 また、川島先生は、前半の実験を終えて、生徒が記載したアンケートを見て、すぐに問題点を解決して、後半には改善をして頂いた結果が現れていると思います。



【項目】 @すごく難しい Aやや難しい Bちょうどよい Cやや易しい Dすごく易しい

U.実験の内容について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者24名)と、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)は、項目Bの「ちょうどよい」を選択している生徒が一番多く、第7回目のアフタースクールの実験の内容に問題がなかったと評価することができました。
 しかしながら、項目Aの「やや難しい」を選択した生徒は、前半では7名(29%)となり、後半では4名(15%)となっていた。これは、前設問である「T.実験の時間について」の考察でも触れたが、定量的な実験になったので、TLC実験の解釈など正確に理解できていなかった生徒がいたと思います。



【項目】 @すごく難しい Aやや難しい Bちょうどよい Cやや易しい Dすごく易しい

V.実験の操作について
 事後アンケートを実施した結果、前半に参加した生徒(実験の時間16時15分〜17時50分 参加者24名)と、後半に参加した生徒(実験の時間17時55分〜19時30分 参加者27名)は、項目Bの「ちょうどよい」を選択している生徒が一番多く、第7回目のアフタースクールの実験の操作に問題がなかったと評価することができました。
 「シリカゲルカラムクロマトグラフィー」をパスツールピペットを活用したスモールスケールでの実験は、以前の第6回目の実験で行ったので、思い出しながら実験を行っていた生徒が多くいました。また、溶出した液体の中に、目的の化合物(アセトアミノフェン)が存在しているのか確認するために、TLCを活用しました。次に、今回はスーパーコックを用いて、溶媒を飛ばす実験操作が増えました。そのため項目A「やや難しい」を選択した生徒が、前半では9名(38%)、後半では8名(30%)いました。しかしながら、研究をより深めていくためには、定性的な実験だけでなく、より客観的な定量的な実験をしていく必要があります。今回は今後、化学を論文のような形でまとめ上げるために必要な能力を教えて頂きました。